とある日、私は危機的状況にいた。



「お前さ、」

奴の体温を嫌でも感じる。

「…おい、腕を解け。」

そう言うと、緩くなるどころか、さらにきつく抱き締められた。

なぜこんなことになった…?



***


男鹿の奴め…。
またぼっちゃまのミルクを忘れるとは…

私は今日、奴の学校とやらに来ていた。
私の姿を生徒達が好奇な目で見てくるが、さして気にはならなかった。

「ここか…。奴の教室は。……まったく仕方のな……………」

紡がれかけた言葉は止まる。



男鹿…?



男鹿は普断からは伺えない柔らかな笑みを浮かべている。
視線の先は邦枝に向いている。

こんなのだって、先ほどの奴等然り、さして気にするようなことではなかった。
今までは。
最近の私はどうもおかしい。
奴のことになると、途端に冷静さが失われてしまう。
気付けば、逃げるようにその場から足が遠のいていた。


***


そんなことがあり、自分を落ち着かせるために、家に着くと、自分の部屋にこもっていた。
そして、ぼんやりと妙な心地で時を過ごしていた。
だから気がつかなかったのだ。

気付いた時にはすでに遅く、今の状態にある。


「…貴様、入る時はノックをしろ。」

「あん?したじゃねーか。何回ノックしても気付かねぇお前が悪い。」

「…………。」

そんなに自分はぼんやりしていたのかと思う。
やはり最近の私はおかしいのだ。
すこぶる調子が悪い。

「……今日、学校に来てただろ…。」

「…気付いてたのか。」

「あぁ…。ミルク、教室の前にあったからな。」

「………フン、次ぼっちゃまのミルクを忘れたら、ただじゃおかないぞ。」

「…………なんで、」

「……?」

「ひとこと声掛けてくれてもよかったじゃねーか。」

「………貴様、邦枝と話していたではないか。」

「それがどうしたんだよ。」

「邪魔をしては悪いと思ったのだ。ありがたく思え。」

ちくりと、胸の辺りが痛む。
なぜだろう。

「なぁ、それって………ヤキモチ?」

「な…」

「妬いてくれてんの?」

「そ、そんなわけがあるまい…!私が貴様などに……」

「あのなぁ、」

「!!」

男鹿はくいっと私の顎を持ち上げた。
どくん、先ほどよりさらに鼓動が高鳴る。
聞こえてしまうのではないかと思うくらいに。

「俺に命令できるのも、こんな口聞けるも」

「……っ」

「お前だけなんだぜ?」

触れられてる部分が熱い…。

「自分が特別なんだって分かってる?」

「………離、せ。」

「やだね。」

突き放そうとするが、ほてった体に力が入らず、それはあまり効果のないことだった。

「……俺はお前に惚れてるんだ。」

「なっ………!?」

「だからお前も好きって言え。」

「…ふ、フン、理不尽な事ではないか。」

「この期に及んでお前は……。いいから好きって言え。そしたら俺もお前を今よりもっとめちゃくちゃ好きになってやる。だから言えよ。」

「………いや、だ。」

「そんなこと言って…お前、分かってんだろうな………。」


意地の悪い瞳が近付いてくる。
反射的にきつく目を閉じれば、頬に温かなものが触れた。


「……言わないなら言わせてやる。好きって言え。言わないと何回でもするけど?」

「なっ…!」

「言うの?言わねぇの?」

「――――…っ……………好き、なのかもしれない。私は、気付かぬ間に貴様に惚れていたのだ…。」

「よしよし、ちゃんと言えたな。」


観念して言えば、男鹿はとても満足そうに笑った。
それは先ほどの邦枝に向けていた笑みとはどこか違うもので、男鹿は少しだけ頬が赤くなっているが、ヒルダはそれに気がついただろうか。
男鹿はヒルダの頬に手を添えると今度は先ほどとは違う場所、さっきヒルダの頬に触れたそれと同じものに口付けた。

「………貴様っ…私は先刻好きだと言ったはすだ!それはもうしないはずだろ!約束が違うではないか!!」

「……そんなこと言ったか?ヒルダ、じゃあ変更だ。」

「?」

「これからは無期限無制限で、何回でもしてやるよ。」

「こっ、断るっ!!」

「ははっ、ぜってー離さねぇから覚悟しとけよ?俺から離れたくないって思うようにさせてやるから。」

「……………。」


否定も拒絶もしないで、ただ赤い顔で俯く事しかできない私は、すでに奴から離れられないのだろう。






* * * * *

ドS(゜Д゜;)}}}
ドSすぎる男鹿っ

拙文失礼しました;(笑)



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