「ふふんふ〜ん♪」
ウチの悪魔ってのは気紛れなもんで、非常に珍しいことに鼻歌を歌っている。
洗濯物を干す後ろ姿も楽しそうで。
なにがそんなに楽しいんだか…
「ヒルダ、何がそんなに楽しいんだ?」
…とは聞かない。
いつもなら反応の面白さにからかうところだが、きっとそれをしたら、ヒルダは鼻歌を止めて、いつものように淡々と家事をこなすだろう。
それに今は…
「〜〜♪」
上機嫌なコイツをずっと見ていたい気持ちの方が勝る。
ベル坊は俺の隣りで、すやすやとお昼寝タイム。
俺もさっきまで一緒に寝てたけど、起きたら笑顔のヒルダが見えてびっくりだ。
「♪」
ヒルダって笑うと結構…
いや、なんでもねぇ。
ちくしょー…
なんか調子狂う…。
アイツが珍しく陽気だから俺はそれにあてられてるだけだ。
そういえば、
ヒルダ、今日クッキー作るとか言ってたな。
気紛れ鼻歌に気紛れクッキー。
…何かいいことでもあったのか?
あ、なんかまた眠くなってきた。
ほんとアイツって気紛れだよなー………
***
「おい…」
「すー…すー……」
「寝ているのか?…ったく貴様は…」
「……?(………ん?ヒルダ…?)」
ヒルダの髪が俺の頬にかかる。
甘い…バラの香り…?
「好きだ。」
なっ………!?
アイツ…今なんて…
そう耳元で囁くと、ヒルダはリビングから出ていった。
反射的に耳に手を当てる。
気紛れ鼻歌に気紛れクッキー。
―どうして好きと囁いたの?
これも気紛れ…?
熱を持ち始める頬を押さえても、熱は引かない。
深呼吸をしても落ち着かないし、心臓の音はうるさく鳴りやまない。
なんだ…コレ………
再び戻って来たヒルダはキッチンへ。
俺はどうしたらいいか分からず、とりあえず狸寝入りを決め込む。
アイツをどんな目で見ていいか分かんねぇ………。
それどころか熱いし心臓うるせーし…
ったくなんなんだよ……
『チンッ…』
キッチンからふわりと甘い匂いがすれば、
ふたりの恋のできあがり。
甘いクッキーは初恋の味。