「好きです…!花開院先輩のことが…!」

「じゃあ付き合う?」

「…へ?」


世界一最強恋愛




「及川〜」

あぁ、これは夢ではないだろうか。
先輩が私に手を振っている。
その上、王子様スマイルで…!


「竜二せんぱーいっ!」

氷麗は前方で手を振る彼に思いっきり手を振り返した。


「氷麗、あんたたちほんとに付き合ってるのね〜」

「紀乃!」

「ふふっ…いい感じじゃない。」

「えへへ……」


―…そう。

私たちは付き合っている。


事の発端は私の告白。

「好きです…!先輩が…!」

一大決心して憧れの「花開院竜二」先輩に告白した。

竜二先輩はかっこよくて優しくて爽やかで…

本当の王子様みたいな人。

だから、憧れる人もたくさんいて、先輩は学園の人気者だ。

そんな先輩だもの。
フラれるのは百も承知…

「じゃあ、付き合う?」

のはずだった。

意外にもあっさりと…あっさりすぎるくらい竜二先輩は私の告白を受け入れた。

「へ?…えっと、あの…付き合うって誰と誰がですか…?」

「………。」

「先輩…?」

「…誰って…。俺とお前に決まっているだろう?」

「えっ!?」

「俺の事好きなんだろ?」

「はっ、はいっ…!!」

「それならいいだろ?決まりだ。」

「えぇっ!?」

「竜二。」

「?」

「竜二って呼んで?」

「りゅ、竜二先輩…!」

「ははっ…先輩はいらないが、まぁいいか…。」



先輩と私が付き合うなんて…
夢みたい…

氷麗は告白時も今も、竜二の王子様スマイルにやられ、しばらくの間ぼーっとしてしまったのだった。


* * *


「あ。竜二先輩だ…」

昼休み。
氷麗がジュースを買いに行こうと、廊下をてくてく歩いていると、前方に竜二が見えて、ふと立ち止まる。

手を振ろうかな…
話し掛けてみようかな…

なんて思ったのだけれど…

挙げかけた手は行き場がなくなったかのように、またすぐに降ろされた。


「花開院くーんっ」
「花開院先輩っ」
「花開院くんっ」

黄色い声に囲まれた竜二先輩は先ほど私に向けたような王子様スマイルを彼女立ちに向けている。

なんとなく見たくなくて、ふい、と顔を背けてしまう。

「あ、及川。」

その声に、いつもとは違う意味でどきりとしてしまう。

「及川〜」

私を呼ぶ竜二先輩の声が聞こえた、

だけど

振り向けなくて…

氷麗の足は竜二とは反対方向へと駆け出していた。


* * *


「っ………」

分かってる…

分かってるわよ…

竜二先輩はモテるもん。

あんなの当然だわ…

だけど…

私だけじゃない…。

あの笑顔は私だけのものじゃないの…。


…だいたい先輩が本当に私を好きかどうかも分からないわ…

あんなにあっさり了承するくらいだもの…。

竜二先輩は優しいから…


きっと私のことなんて…



「氷麗、大丈夫?」

「へ…?…紀乃…?」

氷麗が俯いていた顔を上げると隣りの席の紀乃が心配そうな顔をして、こちらを見ていた。

「顔色悪いわよ?…保健室行こうか?」

「ううん、大丈夫…」

「無理しないで?私が付き添ってあげるから!」

「ありがとう…それじゃあ…行こうかしら…」


* * *


「失礼します。1年1組の紀乃です。」

「はい、どうぞ。どうしたの?」

保健室から若菜先生の優しい声が聞こえて、氷麗と紀乃は保健室に入る。

「あの、氷麗が具合悪いみたいで…」

「あら、ほんとね…。」


奴良若菜先生。

氷麗がまだ小さい頃、お隣りに住んでいた人で、今は氷麗の保健の先生だ。
氷麗が引っ越したことで、一度疎遠になってしまったが、氷麗が進路選択の分岐点に立たされた時、奴良高校を受験し、晴れて合格した氷麗は母と離れ、ひとりこの町に戻って来て、彼女とまたお隣りさんになり、今も変わらずよくしてもらっている。


「えと、頭が少し痛いです…。」

「とりあえず熱測って見ましょうか。」

「はい…」

「それじゃ、私は戻るけど無理しちゃだめよ?」

「うん…。」

氷麗がそう答えると、紀乃はにっこり微笑んだ。
釣られて若菜もにわかに笑みをこぼした。





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