『嘘つきの日』第1話

可愛い嘘
それは砂糖菓子のようにほんのり甘い
(馬頭丸×氷麗)全1ページ




「氷麗〜」

自分を呼ぶ、幼さの残る明るい声が聞こえたので、洗濯かごを抱えた氷麗は、振り向き立ち止まる。

「あら、馬頭丸。おはよう。ふふっ…今日は随分早起きね。」

日曜日の午前7時。
少しだけからかうように、"今日は"を入れた氷麗に馬頭丸は、少しだけムスッとして、ぽかぽかと氷麗の肩を叩く。

「僕だってたまに早起きするもん!」

馬頭丸とはあまり年が変わらないはずだけど、なんだか弟みたいで可愛い…。

馬頭丸の幼い仕草と、彼の少しだけ寝癖のついた髪を見て、氷麗は穏やかに微笑んだ。

「はいはい。…それで?何か用があったんじゃなかったかしら?」

まるで姉が弟にするように、慈愛の笑みを緩く浮かべ、優しく問う。

「あ。」

すると、「そうだったそうだった。」と、馬頭丸は氷麗の肩を叩く手をぴたりと止め、慌てて佇まいを直す。

「あのね、僕、氷麗のこと大嫌いだから、たまにはお洗濯物干すの手伝おうと思って、今日は早起きしたんだよー。」

ん?

言っていることがちんぷんかんぷんで、氷麗は思わず首を傾げた。

「あ。やっぱり氷麗忘れてたんだねーっ。」

それを見た馬頭丸は、嬉しそうに、無邪気に笑みを綻ばせた。

「"忘れてた"って…どういうこと?」

「あのね、今日はね、"えいぷりるふーる"なんだよ〜。」

「エイプリルフール…。」

今日は4月1日。
そう言えばそうだったわね…。

でも先ほどの馬頭丸の言葉がピンとこなくて、氷麗は今度は逆の方に首を傾げた。

「だから、大嫌いっていうのは嘘でー、その反対〜!」

「わ!」

「大好きってことなんだよ〜♪」

馬頭丸は洗濯かごを氷麗から奪うと、にっこり笑った。

「め、馬頭丸…。」

「お洗濯物干すの手伝おうと思ったのはほんとだけどね♪」

馬頭丸は片腕でかごを抱えると、あいた方の手でポケットから、何やら巾着を取り出した。

「いっつも頑張ってる氷麗にご褒美だよーっ!お洗濯物干し終わったら一緒に食べようね♪」

「………。」

呆気にとられ、ぽかんとしていた氷麗だが、馬頭丸の可愛い優しさに、胸の奥がじん、と温かくなり、自然と桜色の唇がゆっくりと弧を描く。

「ふふっ…ありがとう…。私も馬頭丸のこと"大嫌い"よ♪」

「へ!?氷麗、僕のこと嫌いなの!?」

急にあわあわと慌て出す馬頭丸がおかしくって可愛くて、氷麗は声を漏らして笑った。

「もうっ、馬頭丸ってば。ふふっ…その反対よ。だって…今日は"エイプリルフール"でしょ?」

「わ…!」

「これで、おあいこね。」と、氷麗が笑うと、馬頭丸も笑みを零した。

「えへへっ…。」

頬を淡く染めて、はにかみながら、ふにゃりと笑う馬頭丸。

…とくん。

一瞬、小さく音を立てた自分の胸に、頬をほんのり薔薇色に染めた氷麗は少しだけ困ったように笑った。

「さ、馬頭丸のご褒美も楽しみだし、早く終わらせちゃいましょうか!」

「うん!楽しみ楽しみ!よぉし、急げ〜っ♪」

「あ、こら、馬頭丸〜!」

氷麗の手をぎゅと握り締め、馬頭丸は物干し竿がある所に行くべく、廊下を駆け出す。

自分より少しだけ大きな手と、無邪気に笑う馬頭丸を見比べて、まるで桜の蕾がやんわりと綻びるように、氷麗はやわらかく笑うのだった。



TO BE CONTINUED…






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