ぬらりひょんの孫 - 花想録 -
花に託した恋心
(ルート別氷麗受け)全3ページ
朝日が眩しい。
氷麗は微かに目を細めた。
家の前で待ってるよう、主に言われていた氷麗は、今日のお弁当はリクオ様のお口に合うかしら?と、両手にしっかり持った重みを見つめ、少し緊張しつつもうきうきしていた。
リクオ様を喜ばせたい。
リクオ様に褒めていただきたい。
褒めてもらいたいなんて、厚かましいかもしれないけれど…。
鴆様とリクオ様を看病したのを思い出す。喧嘩して、リクオ様の風邪を悪化させてしまった私たちだったのにもかかわらず、リクオ様は私たちを咎めなかったわ。仲裁に入った毛倡妓に結局つまみ出された私たち。部屋を出てすぐ、しょんぼりしていた私たちに襖越しから声が掛かる。
『ふたりとも…心配してくれてありがとう…』
なんて…なんてお優しいのでしょう!リクオ様!あの時は申し訳なくて、情けなくて、リクオ様のお言葉が嬉しくて、氷の涙が零れた。リクオ様の言葉はいつも私の心を温かくする。
「氷麗〜!」
「はっ、はいっ!」
自分のもとへ駆けて来る主を見て、氷麗は小首をかしげた。待ってるよう、主に言われた氷麗は、言われるでもなく、幾分早い時間帯からリクオを待っていたのだが、まだ登校時間には少々早い気がする。
「どうかされましたか、リクオ様?お忘れ物ですか?お弁当ならいつも通り私が持っていますよ?」
ほら、と氷麗は大切に抱えている水色の包みをリクオに見せる。
「ううん、忘れ物っていうわけじゃないんだけど…。…ってあれ?氷麗のは?」
氷麗の手にいつも水色の包みの下にある、ピンクの包みが無いことにリクオは首を傾げる。
「私のは鞄の中です。」
「僕のも入れたら?両手が塞がってちゃ危ないだろ?それか僕が持つよ?」
持たせるのも悪いし、と、リクオは優しく氷麗をたしなめた。
「いいえっ!私に持たせてください!リクオ様に持たせるだなんてとんでもない!私が学校でお渡しするのです!」
氷麗の両手にしっかりある包みを見て、リクオは眉を下げて微笑んだ。
「分かった。頼むよ、氷麗。」
「はいっ!」
リクオの言葉に、氷麗は花のような笑顔を綻ばせた。リクオはそっと目を細める。
「氷麗…」
「はい、なんでしょう?」
「いつもありがとう。」
リクオは後ろに隠していた自分の手を氷麗の前に差し出した。
「へ…」
呆気にとられた氷麗は、鳩が豆鉄砲をくらったように、今は金色ではなく、藍色へと変わったぐるぐるの目を丸くさせる。
リクオの手には、淡い桃色と白雪の包装紙に包まれ、赤いリボンでまとめられた、ピンクのカーネーションの小さな可愛らしい花束。
「赤と迷ったんだけど…氷麗にはピンクかなって…。気に入らなかった?」
「め、滅相もございません。」
「じゃあ…受け取ってくれるかな?」
「は、…はいっ!ありがとうございますっ…!」
氷麗は小さな花束を大切そうに受け取った。
「花束…本当は家で渡せたらよかったんだけど…なんだかね…。」
からかう小妖怪たちを想像し、リクオは苦笑する。
「これでほんとに両手が塞がっちゃったね…。せめてお弁当は鞄に入れなよ。」
「え…でも、崩れたりしたら…」
「僕は氷麗が怪我する方が心配だよ?」
「ね、」と、リクオが念を押すと、氷麗は渋々ながら折れた。「リクオ様がおっしゃるなら…」と、頬を仄かに染めて、包みを鞄に入れた。
「花束も…荷物になっちゃうし、部屋に置いて来た方がいいかもね…。」
すまなそうにリクオは花束を見つめる。
「いいえ!大丈夫です!」
「…そう?じゃあ、気をつけてね?氷麗は危なっかしいんだから。」
「はいっ!って…はわわ!わ、私って危なっかしいですか?…主に心配をお掛けしてしまうだなんてなんたる失態!」
「氷麗、大丈夫だから、そろそろ学校行くよ?遅刻しちゃう。」
「えっ!?す、すみませんっ!り、リクオ様急いで下さいっ!」
慌てて、ぐいぐい自分の背中を押す氷麗に、リクオはやわらかく笑みを零し、「氷麗もね!」と氷麗の手を取り、走り出した。はじかれたように、いたずらっぽい笑顔になったリクオ。その笑顔に、繋がれた右手に、氷麗は顔を真っ赤にさせた。
少し前なら手を繋ぐことくらいなんともなかったのに…。どうしよう…ドキドキする…。
ふわり、カーネーションの花弁が揺れた。
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