* * *



カーネーション。

ピンクのカーネーション…。


リクオと別れた氷麗は、いつものように屋上で待機していたのだが、いつもと違うのは手元に可愛らしい、小振りの花束があること。その上それは氷麗の主であるリクオから頂いたものである。氷麗は改めてその花束をじっと見つめる。

『赤と迷ったんだけど…氷麗にはピンクかなって…。気に入らなかった?』

ピンク。

ピンクのカーネーション。

花言葉は…

「…"あなたを熱愛します"。」

頭の片隅にあった花言葉を小さく口にする。

ね、熱愛…!?

『赤と迷ったんだけど…氷麗にはピンクかなって…。気に入らなかった?』

氷麗の頭の中でリフレインする主の言葉。

気に入らない?だなんて滅相もないけれど…
むしろ嬉しいけれど…

「ねつ…あい…」

熱愛…。
リクオ様が私を熱愛…。


『氷麗…愛してる…。』


「り、リクオ様…!……ハッ…!私…。なんて出過ぎたことを!はわわわっ!…しゅ、主従の関係が…!!」

頭を抱えた氷麗の苦悩はまだ続く。



* * *



昼休み。


「氷麗…食べないの?」

リクオは凍った卵焼きを口に運び、氷麗を見る。

「氷麗…?」

氷麗はピンクの包みを膝に置き、視線はどこへやら、ずっと上の空の状態だ。

「おーい氷麗ー」

「ねつ…あい…」

「氷麗〜?」

「ハッ!…ななななんでしょうリクオ様ーっ!?あっ…私お弁当まだでしたね…!卵焼き今日の自信作なんですよーっ!私も食べちゃおうかなーなんてっ」

「氷麗…そこ口じゃないよ。」

「はうっ」

卵焼きを口ではなく、頬に押しつけていた氷麗は、慌てて離す。

「もう…ほら、こっち向いて?」

「リクオ様ー…?」

「これじゃあ、どっちが年上かわかんないよね。」

にこりと笑ったリクオは「仕方ないなぁ…」と言いながら、ポケットから淑やかな千歳緑のハンカチを取り出し、氷麗の頬をそっと拭いてやる。

「はうわっ…り、リクオ様…主従の関係が…熱愛が…」

「ちょっ…どうしたの氷麗?今日はなんか変だよ?」

「へ!?変じゃありませんよ!?」

「ほんとに?顔赤いけど…熱があるのかな…?」

おそらく検温しようとしているのだろう、顔を近付けて来るリクオに氷麗はたじろぐ。

「わ、私…雪女ですから!熱だなんて…」

「でも一応…」

「あ、あのっ…頭を冷やしてきますっ…!!」

「あ、氷麗!」

駆けて行く氷麗を見て、首を傾げるリクオ。

「…言ってることちぐはぐだよ、氷麗。」



* * *



氷麗はスーパーから出ると、人知れず溜め息をついた。

『リクオ様、私、今日は買い出しがあるので、一緒に帰ることができません。でも、代わりに青が付いているので大丈夫ですよ!』

『氷麗、具合悪いなら無理しちゃダメだよ?なんなら買い出しだって僕が手伝うからさ!』

『いっ、いえ!大丈夫です!』

『そう…?それならいいんだけど…。』


心配そうな顔をしていたリクオを思い出し、氷麗は申し訳なくなる。そして、明らかに挙動不審な態度をとってしまった己の失態を恥じた。

リクオ様は『いつもありがとう』っておっしゃっていたし、第一、リクオ様が花言葉を知って買ったとは、冷静に考えれば薄い気がする。"熱愛"なんて意味じゃなくて、はじめから"感謝"の気持ちだったのかもしれない…。それを私は…

取り乱してしまい、恥ずかしい…。
うぬぼれるのもいいとこね…。

ハァ、先ほどより深い溜め息が零れた。

氷麗は両手にあるふたつの袋を軽く持ち上げ、それぞれ見つめる。

…今日はリクオ様の大好きなものを作ってあげよう。

反省の意を込めて氷麗はそう、そっと誓うのだった。


TO BE CONTINUED…

ここから先はルート別のお話になります。

◆ルート1 奴良リクオ






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