壱
「ん?絵本…?」
触るな!危険!奴良組本家の一室に絵本が一冊、無造作に置かれてるのを見つけ、そっと拾い上げる。
私の主がまだ幼い頃、よく絵本を読んで読んでとせかされたなぁ…なんて懐かしく思い、愛おしい日々を確かめるように絵本の表紙を指先で優しく撫でる。
「白雪姫…」
それは、毒林檎を食べたお姫様が王子様のキスで目覚めてハッピーエンドという、女の子なら一度は憧れてしまうようなお話だったと思う。
「私がお姫様なら、きっと…」
王子様にキスされてもきっと目が覚めないと思うわ。
この上なく嬉しくて、夢のようで…
きっと…夢ならどうか覚めないで、だなんて思って、ずっと眠りから覚めないと思う。その幸せな夢が少しでも続いてくれたら…。夢の中でだけでも1番に思っていてほしいから…。
「!!………私、今…」
そんなわけないのにね…。
あなたが王子様なら、お姫様は彼女。
彼は私の王子様じゃない…。
そして、私はお姫様にはなれないわ…。
「ばかね…。」
それでいいと思っていたはずなのに…。
やっぱり…いざとなると…
「辛いです…リクオ様………」
はぁ、とひとつ溜息をこぼして、手元の絵本に再び目を向ける。
「それにしてもなんでこんなところに絵本が…?」
う〜ん。
少しだけ首を捻って。
だけど、まぁいいかと深く考えずに、1ページ目を開く。
「むかしむかしあるところに…」
そんな冒頭から、あの頃のように少し読んでみようとしたのだけれど…
「なっ!…なにっ!?」
物語の始まりである1ページ目を開いた途端、絵本の中に吸い込まれるように風がごおっと吹いて、ものすごい力で体が絵本の中に引きずり込まれそうになった。
「きゃああああっ!!?」
このままじゃ…
吸い込まれる…!!
!
そうだ…!
これを見たら誰かが気付いてくれるかもしれない…!!
手早くマフラーを外して、投げた。
お願い!誰か気付いて…!!
***
抗えず絵本の中に完全に吸い込まれてしまうと、その中は異世界のようで、ぐにゃぐにゃと空間は曲がっている上、ふわふわとまるで体は宙に浮いているようだ。
「どう…しよう…」
途方に暮れて、この空間がぐにゃりと曲がるがまま、ふわふわと浮いていると、前方に金色に輝く扉が見えてきた。
「あれは…」
一瞬ためらったが、
「他に抜け出す道がないのならば…!!」
私が近付くと徐々に開かれていく扉に飛び込んだ。
そして、私が扉の向こうに完全に入ると…
扉はギィィ…と重々しく鈍い音を立てて、再び閉ざされた。