仮面を外した舞踏会

「男鹿、」

「はい、なんでしょう?ヒルダお嬢様。」


仮面を外した舞踏会

其の男…

執事につき。

「男鹿、なんだこれは…」

今夜は名家姫川家にてパーティの日である。
それにヒルデガルダもよばれており、準備をしていた。

ドレスは漆黒。
きらびやかでも派手なわけでもなく、落ち着いて品のあるそのドレスは私のお気に入りで、それを着ていこうと思っていたのに…

目の前に用意されているのは、薄桃色のしとやかな布地に、淡いレースをあしらい、胸元には小さな桃の花を咲かせた、可憐なお姫様連想させる可愛らしいドレスだった。

…私のイメージとは正反対の。

「何って…。お嬢様が今夜お召しになるドレスでございます。」

にこり、いつものように張り付いたような笑みを浮かべる我が執事。
余計に腹が立つ…。

「いつもの黒いドレスは…?」

「たまには、このようなものもいいのではないですか?似合いますよ。それに、お嬢様はこういうの好きでしょう?」

「そんなことはない!」

「…………素直じゃねぇな。」

「?……」

「あ、いえ…なんでもございません。しかし…」

そっと頬を撫でられて…

「きっとお似合いでございますよ。」

「…………わかったから手を退けろ…。」

「承知致しました。」

***

ー姫川邸…


「こんばんはヒルダさん、………男鹿様。」

「こんばんは…」

「ご機嫌麗しゅう邦枝様。」

「…………?……邦枝?」

「えっ!?あっ…ごめんなさい。今日のヒルダさんがとっても可愛らしくて…。お似合いですわ。」

ふわりと微笑む邦枝。

『大和撫子』

人は彼女をそう呼ぶ。

些細な所まで気付いて、優しくて…本当にその言葉通り聡明な女性だ。

「……ありがとう。」

少しだけ気恥ずかしくて小さく答えると、邦枝は嬉しそうにまた微笑んだ。
だけどそれは束の間。

「邦枝様…」

男鹿の手が彼女の頬に触れる。
すると邦枝は頬を真っ赤に染めて動揺し出した。

「へっ!?おおお男鹿様…!?」

そう、
邦枝は…男鹿に…

「あぁ…動かないでください…。」



あぁ…

アプリコットをあしらった淡い黄色のドレスを着ている邦枝。
きっとこの薄桃色のドレスも彼女が着たら、可愛らしくて…このドレスも喜ぶだろう。

男鹿だって…
あのような娘が好みで…
だから…
だから私に用意したドレスだって…

ふたりはとても絵になった。


だけど、

だけど………

なんとなく…
見たくなかった…。

私に優しく触れたその手が彼女に触れるのを。









「………ヒルダ様?」


***


私は夜風を浴びるためにバルコニーに出た。
少し冷たいそれは、私を落ち着かせるのには丁度だった。

しかし、これではまるで…
私が男鹿のことを

いや…

ない。

ないないない…。

……………。


「……………ドブ男のくせに。」


「だれがドブ男でございますか?お嬢様。」

「ふん……」

「お嬢様………」

「なっ…!?」

するりと男鹿の手が私に触れる。
だけど一度目の優しい手つきではなく、どこか妖艶な仕草だった。
いつものような張り付いた笑みは、実に愉快そうに弧を描いていた。

その仕草に、その笑みにぞくりとした。

そして目を見張った。

こいつは…この人は…


誰…?


「拗ねてるのか?馬鹿だなぁ…」

「え…何……」 

目元を優しくなぞる指先。

触れられたところが熱い…。


「そのドレスは俺がお前をイメージしてデザインした。そんで、特注で作ってもらったんだ。」

「えっ…」

「お前だけのドレスだぜ…?」

「私…だけの……?」

「あぁ。やっぱり思った通りだ。……めちゃめちゃ似合ってる。」

真っ直ぐに見つめられて、どきりとする。
あぁ…
今の私は邦枝のように赤くなっているんだろうか…?

「!……あ…あとっ言葉がっ…」

「あぁ…これ?俺の素。俺が教えたんだから…」

「…?」

「教えろよ…本当のお前…。」

低い声が耳元をかすめて、驚きで目を見開く。
それとともに頬が熱を帯びていく。

「………だったら私だけを見ていろ。他の女に触れるな。」

「………ふっ。承知致しました。お嬢様?」

「ふ…ん………」


「他に目が行かないくらい…お前が俺を…お前しか見れないようにしてくれるんだろ?」

楽しみにしております…と軽く頬にキスを落とし、執事は不敵に笑うのだった。

仮面を外した舞踏会


どうか

私の
俺の

前では素顔でいて?





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