六
***
「なんだこの格好………」
身に付けている物はいつもの着物ではなく…
いわゆる王子様衣装だった。
絵本の中に入って、早速異変が起きていることに溜め息をつかずにはいられない。
「本の中に入るとその登場人物になるってことか…。」
いくら俺でも白雪姫の物語は知っている。
毒林檎を食べた姫が王子の口付けで目が覚める、そしてふたりは結婚して末永く一緒に暮らしましたとさ…
っていう感じだったな…。
先に絵本に吸い込まれた雪女は一体何に配役されたのか…。
もし雪女が姫の継母…魔女の役だったら…
それもそれでいじりがいのある……。
……じゃなかった。
この世界から出るにはたぶん…
物語を完結させなくちゃならねぇ…。
となるとだ…
俺がどこぞの姫さんにキスをしなくてはならないと…。
そう考えると軽く目眩がした。
「はぁあ……ったく…。馬鹿雪女め……」
とりあえず近くにいた白馬に乗り、森の中を進んで行くことにした。
***
「…白雪姫ぇ……!!」
「わぁぁぁん!!」
「ん…?白雪姫…だと?」
森を進んで行くと、物語のキーパーソンである「白雪姫」という単語が聞こえてきた。
近付くと、ガラスの棺を7人の小人たちが取り囲んでいるではないか。
「……早速見つかったな。」
どうやら今日の俺は良くも悪くもついているらしい。
「どうしたんだ?」
小人の一人に話しかけると、そいつは目を見開いてびっくりした様子だった。
「あなたは……!」
「ん?どうしたんだよ冷麗?……!」
「あなたは隣りの国の王子様…ですか?」
”隣りの国の王子様”
そんな感じだったか…?
とりあえず、あぁ…と肯定の意を返す。
「どうかしたのか?ガラスの棺を囲んで…」
「私たちの優しい白雪姫が………ふぇぇ……」
「白雪ちゃんが死んじゃったよぉおお!!」
わんわん泣き崩れる小人たち…。
姫は、と………
「!!?…なっ!?」
雪女……!?
ガラスの棺に眠っていたのはなんとあのマフラーの主、雪女だった。
こいつにキスをしろと言うのか…?
「王子様?どうかなさいましたか?」
「いや…その…………」
ごほん、
一つ咳払いをして。
「………これも何かの縁だ…。俺にも別れの挨拶をさせてくれ……」
そっと雪女の体を抱き起こす。
ひんやりとした体温にどきりとした。
情けねぇことに手に汗が滲んでく。
「っ………」
しばらくずっとそうして雪女を抱えていると、痺れを切らしたのか、抗議の声があがった。
「やい王子!いつまでそうしてるつもりだ!」
「そうよ!私たちの白雪姫を返してちょうだい!」
だぁああ!!
くそっ……!!!
悪く思うなよ雪女!!
「こいつは俺のもんだ!!」
ちゅ…
軽いリップ音が響いた…。
駆け引きしようか?