***


「なんだこの格好………」

身に付けている物はいつもの着物ではなく…

いわゆる王子様衣装だった。

絵本の中に入って、早速異変が起きていることに溜め息をつかずにはいられない。

「本の中に入るとその登場人物になるってことか…。」

いくら俺でも白雪姫の物語は知っている。

毒林檎を食べた姫が王子の口付けで目が覚める、そしてふたりは結婚して末永く一緒に暮らしましたとさ…

っていう感じだったな…。

先に絵本に吸い込まれた雪女は一体何に配役されたのか…。

もし雪女が姫の継母…魔女の役だったら…



それもそれでいじりがいのある……。


……じゃなかった。

この世界から出るにはたぶん…

物語を完結させなくちゃならねぇ…。


となるとだ…

俺がどこぞの姫さんにキスをしなくてはならないと…。

そう考えると軽く目眩がした。

「はぁあ……ったく…。馬鹿雪女め……」



とりあえず近くにいた白馬に乗り、森の中を進んで行くことにした。


***


「…白雪姫ぇ……!!」

「わぁぁぁん!!」




「ん…?白雪姫…だと?」

森を進んで行くと、物語のキーパーソンである「白雪姫」という単語が聞こえてきた。

近付くと、ガラスの棺を7人の小人たちが取り囲んでいるではないか。


「……早速見つかったな。」

どうやら今日の俺は良くも悪くもついているらしい。


「どうしたんだ?」

小人の一人に話しかけると、そいつは目を見開いてびっくりした様子だった。

「あなたは……!」

「ん?どうしたんだよ冷麗?……!」

「あなたは隣りの国の王子様…ですか?」


”隣りの国の王子様”

そんな感じだったか…?

とりあえず、あぁ…と肯定の意を返す。

「どうかしたのか?ガラスの棺を囲んで…」

「私たちの優しい白雪姫が………ふぇぇ……」

「白雪ちゃんが死んじゃったよぉおお!!」


わんわん泣き崩れる小人たち…。


姫は、と………

「!!?…なっ!?」


雪女……!?


ガラスの棺に眠っていたのはなんとあのマフラーの主、雪女だった。

こいつにキスをしろと言うのか…?

「王子様?どうかなさいましたか?」

「いや…その…………」

ごほん、

一つ咳払いをして。

「………これも何かの縁だ…。俺にも別れの挨拶をさせてくれ……」

そっと雪女の体を抱き起こす。

ひんやりとした体温にどきりとした。

情けねぇことに手に汗が滲んでく。

「っ………」



しばらくずっとそうして雪女を抱えていると、痺れを切らしたのか、抗議の声があがった。

「やい王子!いつまでそうしてるつもりだ!」

「そうよ!私たちの白雪姫を返してちょうだい!」


だぁああ!!

くそっ……!!!

悪く思うなよ雪女!!







「こいつは俺のもんだ!!」


ちゅ…





軽いリップ音が響いた…。



駆け引きしようか?



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