参
陰陽師娘に言われた通り、外に出てみると、いくらか気が落ち着いた。
庭には私の好きないろんな花が咲き乱れていて、その甘い香りにしばし癒される。
上書き保存にご注意を。でも…
状況は変わらないわ…。
絵本のページをめくったら、絵本の中に吸い込まれていて、
牛頭丸が父親で、
陰陽師娘がおそらく私の母親。
そして私が…
『白雪姫』
どうしたら元の世界に戻れるんだろう?
あぁ…若…
会いとうございます…。
私はどうなってしまうんでしょう…?
***
「ふふふ…。邪魔な白雪もいなくなったことだし、ほな始めるとするか。……鏡よ鏡、世界で一番美人なのはだれや?」
「………白雪姫です。」
「なんやて!?もう一遍言うてみ!世界で一番可愛らしいのはだれや!?」
「白雪姫です。」
「くぅぅ〜っ!!なんで白雪なんや!!…こうなったらアレや!島!!」
「はっ!なんでしょう、ゆら様。」
「白雪を滅したれ!!」
「なっ!!?」
「なんや?できへんのか?まさか私に逆らう気やないやろうな?」
「そそそそんなっ…滅相もございませんっ!!」
「ふふふ…。これで世界で一番美しいんは私や…」
***
「……姫様、」
「!!…島君!!?」
「あの、よかったら少し散歩しませんか?」
「ええと…。……いいわよ。」
私がそう答えると、少しほっとした様子の島君に首をかしげる。
島君は一体何の役なんだろうと…。
う〜〜ん…
悩みながら歩いていると、いつの間にか島君はいなくなっていた。
「え…ちょっと…!島君!?」
「(ごめんなさいゆら様…。やっぱり俺には、姫様を殺すことなどできません…)」
「島君!?ねぇってば〜〜!!」
「(姫様、騙した事、どうかお許しください…。きっと姫様なら、必ず助けてくれる人が現れます…。どうかご無事で…)」
***
「あぁ〜〜もうっ!!ここはどこなのぉ〜〜っ!?」
叫んでも応えてくれる人はいない。
変わりに、ザワザワと不気味に木々がざわめいた。日も暮れ、辺りはすっかり真っ暗になってしまった。夜雀と戦った時の事を思い出す。
あの時は、リクオ様に信じてもらえたのが嬉しくて…
お守りしようと、一生懸命頑張ったのだけれど…今はひとりぼっち。
頼りない側近頭と笑われてしまうかもしれないけれど…
正直とっても怖かった。
「どうしたらここから抜け出せるのよ〜〜…」
歩き疲れて、休もうとしたところ、前方に小さな家が見えた。
ほっとして駆け寄り、ドアをノックしたけれど、返事はなかった。
「誰かいませんかぁ〜…?」
ガチャリ、ドアノブを回すと鍵がかかっていない事に気がついた。
悪いと思いつつも、中に入ってみると、小さなテーブルに、椅子が7つ、お皿とカップが7つずつ並んでいた。
そのすぐ近くに、これもまた小さなベットが7つ並んでいるのを見て、少しだけ休ませてもらおう、と心の中でここの住人に詫びて、疲れ切っていた体を7つのベッドに寝かせることにした。
***
『…誰か助けて〜〜!!』
どうして落とし穴なんかに落ちちゃったんだろ…。
うぅ…情けない…。
…誰も通らないし、ずっとこのまま…
『そんなのいやぁぁぁ!!!助けて〜〜!!!』
ザッ……
『リッ…リクオ様!?』
『何やってんだ雪女…。助けてやるから手出せ。』
***
「なっななななんでアイツが出てくるのよッ!!?確かにあの時は助けてもらったけど…。ってあれ…?私寝ちゃってたの…?……うぅ〜…夢見悪いわ……。」
なんでアイツが出てきたんだろう?
確かに助けてもらったのは感謝しているけれど…。
だけど…
アイツ陰陽師なんかじゃない…。
悪魔だわ………。
意地の悪い笑顔を思い浮かべて、首を横に振る。
『やっぱり泣いてやがったか…』
そっと目元に触れた指先。
かぁぁぁぁぁ…
頬に熱が集中する。
ハッ…
なんでこんな恥ずかしくならなきゃいけないのよ…!!
『嘘だ…。騙されやすいなお前。』
うんうんうん!!
やっぱり悪魔よ!!うん!!
「あの…お取り込み中悪いんだけど…」
「…?」
「それ私たちのベット…。」
「・・・・・・・・はわっ!?」
いつの間にか自分の世界に入り込んでいたため気がつかなかったが、私の周りを囲むように、物珍しそうに眺めている7人の…
「小人さんっ!?はわわわわわわ!!?ごめんなさいっ!私っ悪気があったわけじゃないんです!!少し休ませてもらおうかなぁなんて!すみませんでしたぁぁぁ!!!」
「まぁまぁ、落ち着いて…?あなた白雪姫ね?」
「は、はい…。…えと、……あれ…?」
桃色の髪…冷麗…??
それに落ち着いて考えてみれば、最初に私に話しかけたのって…
家長の声だった…?
巻さん、鳥居さん、清継君、淡島、イタク…
みんなは7人の小人さんなのかしら…?
「ふふっ…噂通り、可愛い子ね。でもどうしてこんなところに来てしまったのかしら?」
「……実は………」
***
小人さんたちは迷い込んだ事を可哀想に思ってくれて、一緒に暮らすようになったけれど…
パンパン…
皺を伸ばすよう、洗濯物を軽く叩く。
家事はもともと得意だし、やりがいがあって楽しいかも…。
ほのぼのとした生活を過ごしていくうちに、私は自分が絵本の世界に入ってしまっているという事をすっかり忘れてしまっていた。
ずっと前からこうしていた気さえする。
まるで記憶が上書きされていくかのように……