▼ 己の選択
東京都池袋の一角。大通りから外れあまり人通りのない比較的閑散とした区画に建てられた地下二階、地上十二階階建てビルは、五年以上前に当初落ちぶれていた企業が、用途不明のまま買い取り、巻き返してから最近に至るまで、その後数年間、誰にも使われることの無かった持ち物である。
全体的に白く、建物の中も外もシンプルで閑散としている。
そもそも、十階から上の三フロアと地下の二フロア以外は全て最低限体裁は整えられているものの、ほぼ手付かずの状態だった。定期的なクリーニングで、埃やカビと言ったものは無く清潔ではあるが。
そして最上階の唯一の居住スペースに関してもそれは同様だった。
二十畳弱ある間取りに、革張りのソファーと、テーブルが置かれた他は、簡易の冷蔵庫とキッチン。そして、同じく小休憩用の簡素なベッドを設置しただけの室内。
「――ふーん。やっぱり、そっか」
そんな広いだけで生活感の無い居住スペースで、ベッドに腰掛けた鼎は耳を当てた携帯に声を発した。
「それだけ分かればもういいよ」
『対処はしなくていいのか? 俺ら相手に追いつめられた小さい会社を唆してし向けさす相手だぞ』
「君や蒼依はともかく他のメンバーには荷が重いんじゃないかなぁ?」
『……誰の仕業か、もう検討ついてんのかよ』
「大体予想付くよ。鼠君担当した蒼生や、智久……君も犯人の検討はついてるよね? 知り合いでもあるんだし」
『はぁ……知り合いたくはなかったがな』
「情報屋、折原臨也」
通話を切って、携帯端末を机に放った。
今の通話相手、三藤智久は篠宮に仕えていた老齢の使用人の孫で、鼎が実家を出る際にその手配を任せた少年だった。
現在二十六才で黒騎士の中では最年長のまとめ役である。
蒼生の方は、元不良少年ながら見た目穏やかで敬語口調な、腹黒青年。
人海戦術や脅迫、拷問が趣……いや、得意だ。まぁ、それもどうかと思うけど。
鼎は放り出した携帯の隣に置かれたタブレットを手に、ベッドに腰掛け、画面をタップする。
「ふーん……黄金族の方にまで関与してるんだ、折原臨也。節操無いなぁ」
黒騎士に手を出すのは一筋縄じゃ行かないって理解していながら片手間にちょっかいを掛けてきたとはある意味尊敬に値するよと、一人ごちながら、画面に映し出される折原臨也という人間のデータを眺める。
その中に、折原臨也と黄色を身に付けた友人の写真を認め、数瞬後にはタブレットすら放り出して、そのまま転がった。
「さて、と。どうしよっかな。彼に忠告してあげてもいいけど、そんな義理や、まして正義感なんてものもないし。折原臨也を信用するしないは本人次第」
自分が選んだ結果どうなろうと、それは自業自得である。
だったら彼が何を選択し、何を得て、そして、何を失うのか。
舞台脇から見学していることにしよう。
それもまた、
己の選択
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