世界との別れ
その日はいたって普通でいつも通りの日常の断片だった
祖母と都心に近い街に移って、そこでは私の黒目黒髪も受け入れてくれる人が多くいた
多少は禍罪の子と軽蔑されることもあるがそれでも幸せな日常を送っていた
祖母からのお使いで街へ出かけていた時だった
「急に天気が悪くなったねぇ」
『そうですね、急いで帰らないと……』
買い物をしている途中、晴れ渡っていた空は厚い雲に覆われ嫌な空気が流れ始めた
街の人たちもおかしそうに空を見上げては不安そうな顔をしている
「おい!あれ何だよ!!?」
「嫌!化物!!」
人々が怯えて指をさしたその先にはまだ距離が相当あるにも関わらず大きく存在感を放つ魔物がいた
叫び声をあげながら魔物とは反対方向に逃げていく街の人たち
魔物は真っ直ぐに私たちのいる街へと向かってきていた
『私がなんとかしなくちゃ』
この魔物を倒せるのはきっと私だけだと思った
軍の機動部隊たちが魔物に向かっていく姿が見えるがまるで怯むことなく街へとやってきた
建物は壊され人々はますます慌てて逃げ出した
『おばあちゃん……っ、ごめんなさい』
「じょーちゃんなにしてる!早く逃げないと死ぬぞ!!」
『離して!私は行かなきゃいけないのっ!』
私に声をかけたのはよく知る八百屋のおじさんで、私の腕を必死に掴むが、その腕さえも振りほどき一目散に駆けた
私は流れるように動く街の人とは反対方向に全力で走った
目指すは魔物の近くそびえる塔をめがけて
勢いよく塔を駆け上り一番上へとたどり着いた
街で一番高い塔だが、魔物の方がはるかに大きく見上げるほどだった
『Si prega di portare il crollo al male』
祖母から教わった呪文だった
決して使ってはいけない禁忌の呪文だと言っていた
走馬灯のように祖母との思い出が蘇り
私の意識はそこで途絶えた
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