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しばらく無言でお粥をもぐもぐしていると、天が珍しくためらいがちに口を開いた。


「ね、合鍵とかないの」
「はあ!?」


思わず変なところから声が出た。合鍵って。


「あったらどうする気」
「欲しい」


ええ……そんな普通のテンションで言われても。


「いや、さすがにそれはおかしいでしょ」


出会って一か月半のよくわからない男にほいほい合鍵を渡すような女じゃないし。


「しばらく貸すだけでいいから」


そういう問題じゃない。


「一度渡したら終わりじゃない?」


しばらく、の間に合鍵の合鍵とか複製する気じゃないだろうな。


「その言い方だとあるんでしょ」


確かにある。一つだけ余ってる。けど。


「お願い。心配で眠れなくなる」
「わたしが不安で眠れなくなるよね!?」


自らストーカーに鍵を渡す馬鹿がどこにいるんだよ。


「じゃあ、今日は泊ってもいい?」
「駄目だから」


そのセリフこの前も聞いたし。

合鍵も宿泊も断られた天は、ちょっと泣きそうな顔をしていた。
そんな弱い男じゃないよね、君。急にどうしたの。


「わかったよ。しばらくの間だけだよ」


ちょっとかわいそうになってきて、合鍵を探して天に渡す。


「ありがとう」


両手で鍵を受け取った天は、ずっと欲しかったプレゼントをもらって喜ぶ子供みたいだった。

大丈夫かな。大丈夫だよね。相手は大人気アイドルだもんね。
間違っても問題は起こさないと信じている。