「雨だ」
窓の外でぽつぽつと雨が降り出した。雨が降るなんて聞いていない。
「天、傘持ってる?」
「持ってないよ」
まだわたしの家に居座っている天に声をかけると、彼は首を振った。
「貸してあげるから早く帰ったら?」
そろそろ夕飯の準備もしたいし。
「雨の中追い出すの?」
彼はベッドの上のわたしを上目遣いで見上げてきた。
「子猫じゃないんだからそんな顔されても可哀想とか思わないよ? 傘貸してあげるだけ喜んで」
わたしが悪者みたいじゃないか!
どちらかというと被害者です。
「雨が止むまでおいてくれないんだ」
天は失恋した女の子みたいなテンションだった。
いや、知らないから。ここはあなたの雨宿りじゃないんです。
「もうこんな時間だし」
「じゃあ泊めて」
「じゃあ、ってなんだよ。帰れっていってるんですよ」
女の子の家に泊まっていいの?
わたしたち友達でもなんでもないよね。
帰れってストレートに言ってみたけど、天はまだ腰を上げる気はないようだった。
「テレビないの?」
しかも急に話題を変えてくる。
わたしの気を逸らそうとしても無駄だよ。
「ないの」
わがままな子供に言い聞かせるようにしてぴしっと言い切った。
一人暮らしを始めてまだ日が浅いわたしの家には、テレビがない。
実家にいたときもあんまりテレビを見ていなかったので、特に不便だとか不満だとかはないんだけど。
「天は文句しか言わないから嫌なんだよ」
声に出す気はなかったのに、思わず声に出てしまった。
だって天はすぐにあれこれ文句を言うからさ。
←