一つ目のバイト先である、そば処山村、にて。
「はあ」
お昼時のピークが終わって休憩に入ると、思わずため息がもれてしまった。
「どうした、ため息なんかついて」
一緒にお店に立っていた山村さん家の息子さん?が声をかけてくる。
この人、最近ここ以外のどこかで見た気がするんだけど、思い出したくても思い出せないんだよね。どこだったかな。
「山村さん。すみません、幸せが逃げましたよね。いますぐ吸います」
わたしが大きく息を吸い込むと、山村さんが少し呆れていた。
ごめんなさい、ふざけたバイトで。
「なんか最近変なのに付きまとわれてて」
バイト先の人にこんなこと相談したくないけど、だれかに言わずにはいられなかった。
口にしたら気持ちが晴れるかなって。
「ストーカーか? 危ないな」
「いや、ストーカーにしては堂々としてるっていうか」
家にまで上がりこんでくるし。
でも考えてみたらすべては突然のことだった。突然電話がかかってきて、九条天です、とか言われて、は?ってなってる間に、奴はいつの間にかわたしの日常生活に入り込んできたんだ。ほんとはストーカーだったのかな。
〜♪
「あ、メール」
手にしたスマホがメールの着信を知らせる。
メールボックスを見ると、まさにいまわたしが話していた人物から短文のメールが届いていた。
『いまどこにいるの』
「うわ」
タイミングがタイミングなだけに、ちょっとこわい。
呼び出す気か。またデートか。
アイドルって忙しくないのかな。確かTRIGGERって人気アイドルなんだよね。
「アイドルってお休みあるんだ」
わたしがつぶやくと、近くにいた山村さんが顔を上げた。
「あるだろ。俺も今日はオフだ」
「なにいってるんですか、今仕事してるじゃないですか」
山村さんは家をつぐ気なのかな。蕎麦屋さんじゃなくても生きていけそうな顔面偏差値なのに。
「あ、ああ、そうだな。そうだった」
なぜかよくわからないけど、彼はちょっと慌てていた。
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