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担任を探しても見つからず、職員室に行ってもだれに声をかけていいかわからないし、だいたいわたしを呼び出したのがだれなのかさえ怪しいし、もう精神的なエネルギーが限界を迎えていた。

教室になんて死んでも戻りたくないから生徒用玄関に戻って下駄箱の近くで身を小さくする。いつでも帰れるように。

やっぱり三か月も経ってるんだから、浮くに決まっている。わかっていたのに。時間は取り戻すことができないんだよ。


「名字さん」
「ひっ」


消えてしまいたい衝動に駆られていると、背後から声をかけられた。あまりにも突然のことで、思わず漏れそうになった悲鳴をなんとかして飲み込む。

顔を上げると眼鏡をかけた教師らしき人がいて、わたしの反応に目を細めたところだった。


「あなたが名字さんで間違いないですね」
「は、はい」
「おはようございます」


挨拶されてもわたしの警戒心は薄れるわけがない。
この人が担任?いや、でも転校初日に会った人と絶対違うと思う。


「どうしてここにいるのですか。2年B組の教室はあちらです」


冷たい声でそんなことを言われて、わたしは委縮した。
まさか無理やり教室に誘導されている?学校に呼び出したのも、退学手続きとかではなく、強制的に学校に通わせるため、だったの?


「わたし、学校を辞めます。そう伝えたはずで……」


声を絞り出してもう一度伝えた。この人に伝えていいのかよくわからないけど、どうせわたしのことなんて教師の間で噂になっているに決まってる。


「わかりました」
「え」


意外とすんなり受け入れられて逆に面食らう。てっきりさっさと教室に戻れとかなんとか言われるのかと思ったのに。


「ですが一つ条件があります」


先生はそう言って、わたしの目の前に『ソレ』をつきつけた。


「辞めたい理由をこの紙に書いてください。すべて書き終えるまで、退学届けは受理しません」


彼が差し出してきたのは、厚さ10cmはあるんじゃないかという紙の束だった。10cmって言ったって、紙の厚さだ。相当の量である。


「あの」
「なにか質問が?」
「な、ないです」


眼鏡越しの鋭い視線に刺されて、わたしはなにも言い返せなかった。
書類にハンコを押すだけで済む話ではないんでしょうか。