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夏休みはゆっくり家で休める、と当たり前のように思っていた。


「おい、名字、聞いてるか?」
「は、はい」


夏休みが始まって三日目。
わたしの目の前には教科書とノート。
黒板を背にして立つ教師。

ここは家ではない。
学校だった。


学校嫌いなわたしが、なぜ夏休みに教室にいるかというと、不登校期間分の授業を受けるためだった。

確かに一人だけ遅れているのは確かだし、授業もついていけていない。
だからって、なぜ夏休みまで学校に足を運ばなくてはいけないんだろう。


しかもこれだけ教師に監視されていては、退学レポートを進めることすらできない。
学校を辞めたいだけなのに、ハードルがどんどん上がっていく。障害物も多い。

わたしの心はとっくの昔に砕けている。


*


今日の分の授業が終わってやっと自由が訪れた。定期的に確認テストがあるらしいので、それに向けての勉強も必要だ。このままだとレポートを書く時間はそんなに取れそうにない。

教室を出て廊下を歩くと、校内には生徒の姿が結構あった。夏休みでも、みんな忙しそうだな。


そういえば凛月に任せたレポートはどうなったんだろう。隣の席だから夏休み前に彼とは顔を合わせたものの、特に会話をすることもなく、いつもどおり隣にいるだけで時間が過ぎていった。わたしから話しかける勇気はない。


「おわっ」
「……っ」


考えごとをしていたせいで、廊下の曲がり角でだれかとぶつかった。
相手はなんともなかったようだけど、わたしは背が低いせいで盛大に鼻をぶつける。

痛い。
最近こういうことばっかり起こる。


おそるおそる視線を上げると、どこかで見たことのある男子が立っていた。

どこかで。
……見たことあるはずなのに、だれなのかわからない。


「テメ〜、俺様にぶつかっておいてだんまりかよ? あァ?」
「え、あの」


不良……!?

この学校に来て、あからさまに柄が悪い人と出会ったのは初めてだ。
ここにもいるんだ、こういう人。

そうだ、男の子は本来こういうもので、凛月みたいなのは珍しいパターンなんだ、やっぱり。