「あら、お嬢様いま起きたところ?ちょうどいいわァ。制服のアイロンがけがまだ終わってないの。昨日も今朝もちょっとバタバタしててね。申し訳ないけど、いまのうちに顔を洗ってきてもらえるかしら?すぐに用意するわァ♪」
スキップするような軽い足取りで部屋に顔をだしたのは、いつも着替えとメイクを手伝ってくれる嵐。彼の手には、メイク道具一式と、小さなアイロン台、それにわたしの制服も混ざっていた。
ぽんぽん、と荷物を所定の場所に置いて、さっそく仕事を始める。嵐の所作は優雅で、見ている分には忙しさなんて微塵も感じられなかった。
「忙しいならわたしが自分でする」
「駄目よォ!これはアタシたちの仕事だもの。お嬢様はゆっくりしてて♪」
手持無沙汰になって、嵐の背後を行ったり来たりしてみたものの、仕事を譲ってはくれなかった。わたしは餌を待つ子犬みたいな気分になる。してもらってばかりだと、逆に心が窮屈になるってこと、みんなは知らない。
「王さまは泉ちゃんが呼んでたわよ」
「げっ、セナのやつ、また怒ってるのか。忙しいやつだな」
まだわたしのベッドに腰掛けているレオは、泉の名前を聞いて顔をしかめた。
王さま、なんて呼び名にはふさわしくない、子供みたいな身軽さでベッドから飛び降りる。泉がレオを探すときは、だいたい怒っているとき。
「無駄話をしている時間はない。それぞれ持ち場に戻るぞ……おい、月永、そっちは窓だ。逃げる気か?」
「ケイトもセナもうるさいからいやだ!」
時計を確認した敬人が、窓から飛び降りようとしているレオに視線を送る。もしかしたら子供より子供っぽいかもしれない。
けれど、彼の主張が敬人に通じるわけもなく。
「名前、悪いが月永を引っ張ってつれてきてくれ」
結局最後はいつもわたしに委ねられる。
これではだれが主人かわからない。
仕方なく、窓に手をかけて騒いでいる執事の襟を掴むと、彼は小さく呻いた。お嬢様には逆らえないでしょう。
「首が絞まる!おれを殺す気か!?」
「ごめんね、レオ」
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