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ドライヤーの温風に当てられる。髪に触れる手が優しくて、思わず寝てしまいそう。
まるで雨の日に拾われた子猫みたいな気分。


「……くしゅん」
「んもう、風邪引くのよォ? 噴水に飛び込んだのを見たときはびっくりしたんだから!」


クラスメートの男の子に髪を乾かしてもらっている状況に、まだ頭が追い付いていない。

でも、同級生というより、お姉ちゃんって感じだ。本物のお姉ちゃんがどんなものなのか知らないけど。


「ごめんなさい」
「怒ってるわけじゃないの。心配してるだけよ〜。女の子なんだから自分の体は大切にしないと。まあ、凛月ちゃんが珍しく部屋を飛び出そうとするから、そっちにも驚いたけどねェ」


彼の話をただぼーっと聞く。風邪でも引いたのか、ちょっと頭がふわふわしている。
そういえばこの人、名前も知らない。同じクラスなのに。


噴水から救い上げられたわたしは、さっき飛び出したスタジオに連れ戻された。

ずぶ濡れのわたしを見た彼らが、タオルや着替えを貸してくれて、おまけに髪まで乾かしてくれている。ほんとに拾われた捨て猫みたいな扱いだ。

下着だけはどうにもならなかったので、ちょっと冷たいけど我慢するしかない。


「ほら、乾いたわよォ♪綺麗な髪ね〜、せっかくだから整えてあげる♪」


頷くことも、逃げることもできないまま、わたしは彼の言いなりになるしかなかった。

そんなことより、目の前のことが気になって。


「凛月先輩、これはなんですか? なにかの書類のようですが」
「あぁあ、ス〜ちゃんへたに触らないほうがいいよ。破けたら名前がなにしてくるかわかんないし」
「す、すみません」


凛月が退学レポートを一枚一枚そっと広げながら、床に並べている。

濡れて字が滲んでいるせいで内容をちゃんと読むのは難しいだろうけど、知らない人にじろじろ見られるのはちょっと嫌だ。

ジャージを貸してくれた一年生の男の子は、さっきからわたしのことを警戒しているし。凛月がそんな言い方するからわたしが怖い女みたいに聞こえるんだよ。


「乾かせばなんとか読めるでしょ。全部そろってるかは微妙なとこだけど」


わたしがショックを受けているのが伝わったのか、凛月はさっきからそんなことばっかり言ってくる。もう全部そろってるかどうかなんてわたしにもわからない。

ボロボロにふやけていないだけマシなのかな。


「これなに? なんでさっきまで寝てたくまくんが濡れた紙を広げて干してるわけぇ?」
「セッちゃんは知らなくていいの」


だれになにを聞かれようが退学レポートのことは内緒にしてくれるみたいだった。言ってもどうせ笑われるだけなんだろうけど。