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まだ一か月は経っていないものの、七月になって学校に通いながら地道に書いてきた退学レポート。厚さ10cmのうちの5mmにも満たない枚数だとしても、文章力のないわたしがコツコツ書いてきた。代わりに授業は真面目に受けていないけど。

わたしにとっては授業よりも何よりも必要なものだった。

ここから去るために。


「どうして……」


そうだ。そもそも今日は退学レポートを先生に見せるために校舎を歩き回っていたんだ。

でも結局見つける前に寄り道をして、勝手に逃げ出して走って転んで、噴水にダイブしたんだ。

噴水に飛び込んだことが衝撃的すぎて周りが見えていなかったのだけど、よく見たらわたしの周りには紙らしきものが浮いている。いままでに書いた分は、全滅かもしれない。


「あなたのですか……?」
「……大切なもの、なんです」


俯いて答える。大きなものを失ったような感覚に、視界が少しぼやけて見えた。


「それはたいへんですね……すぐにたすけてあげないと」


すると、目の前の彼はそう言って、浮いたり沈んだりしているわたしの退学レポートを集め始めた。集めるというよりは、弱い生き物を助けるように丁寧にすくいあげていく。

これからどうしよう。考えてみれば無謀な気もする。あの量のレポートを書ききる自信もない。

先生だってわたしのことを辞めさせるつもりはないんじゃないだろうか。そもそもどうしてわたしなんかを引き止める必要があるのだろう。

なにか嫌な予感がする……


「あれ〜? 『なかま』がおむかえですよ〜♪」
「……?」


ショックが大きすぎて未だに噴水の中にいるわたしには、一瞬なんのことかわからなかった。

なかま?


「あらやだ、名字ちゃん大丈夫!?ずぶ濡れじゃないの……!凛月ちゃん手伝って!」


後方から声がする。だれかが走ってくる音。


「あぁ……ひざしがきつい」


振り返ると、やけに元気のない凛月と、クラスメートの姿があった。