名前はそれから大事を取って一週間ほど自宅で療養することになった。凛月が学校から帰ると、名前はベッドに座ってあやとりをしたり、折り紙を折ったりして一人で楽しそうに遊んでいた。
なんとなくリンゴを剥いて持って行ってあげると、まるで宝石を見るかのようにキラキラした瞳で喜んでくれた。
「ありがとう、りつにい」
たまにはいいか。
自分もリンゴを齧りながら、小さな妹を見て思った。
*
一週間の療養が明けて、名前はまた学校に通うことができるようになった。
久しぶりに着る幼稚園の服と、お気に入りの鞄。帽子をかぶって立ち上がった名前の前には、ぺたんこの鞄を持った凛月がいた。
「……靴紐とれてる」
しっかり結ばれていなかった名前の靴紐がだらしなく垂れさがっている。
兄の言葉に慌てて直そうとした名前だったが、ぐいっと近づいてきた手に阻止された。
「ほら」
あっという間に可愛らしいリボン結びができあがって、名前は一瞬ぽかんとする。
お兄ちゃんが結んでくれた。ただそれだけのことなのに。
無言で玄関を出ていく凛月の後ろ姿を追って、名前は歩き出した。
*
「お、名前。もう風邪は治ったのか?」
教室に着くと真緒が出迎えてくれた。真緒とは家が近いので、名前も顔見知りだ。もしかしたら凛月より親しいかもしれない。
「まお。うん、なおった」
「よかったな。無理すんなよ」
目線を合わせて頭を撫でてくれる。
名前にとって真緒は優しいお兄さんだ。きっと真緒が本当の兄なら毎日こうやって頭を撫でてくれるだろう。零だってしょっちゅう頭を撫でてくれる。でも名前が本当に撫でてほしい相手は二人ではないのだった。
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