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家に着くと、零が慌てて駆け寄ってきて、凛月の腕から名前を抱き上げた。そのあとは両親や担当医に連絡する零を見ながら、凛月は玄関から動くことができなかった。

風邪が重症化しただけだと診断を受けた名前は、自分の部屋のベッドで寝ている。


「ごめん。今回のは完全に俺が悪い」

零に謝ることなんてめったにない。でも、今回のことばかりは自分がどう考えても悪かった。名前を正式に預かったつもりはないが、名前に指示をだしたのは自分だ。名前が凛月の言葉に従うことをわかっていたから。でも雨が降るなんて。

「凛月に預けたのは我輩じゃから、凛月の責任ではあるまい。昨夜から風邪気味だったと聞いておるし、あまり気にしてはいかんよ」

零はこんなときでも凛月に優しかった。本当は怒ってほしかった。
中途半端な関係で名前を引き連れて学校に行っていたが、それこそが間違っていた。
面倒だからと見ないふりをしてきたが、小さな命を預かっている実感が、なかったのだ。


医者が帰ってから名前が休んでいる部屋に行くと、大きなベッドに横たわった小さな名前が、赤い頬に赤い鼻で、凛月を嬉しそうに見上げた。

「りつにいだ」

名前が家に帰ってきたときから、ずっと心が痛い。
あのときも名前は嬉しそうに凛月を見上げた。
ずっと会いたかった人に、会えた。そんな顔をしていた。
でも、凛月はその思いに追いつけない。名前と凛月の中で、お互いの存在が異なる大きさのせいで。どんなに懐かれても、凛月にはそれに応えるだけの愛情がなかった。

だから。

「なんで俺の言うこと聞くの。あんたのことなんて好きじゃないし、優しくした覚えもないのに。正直言って迷惑。急に現れて、どこにいくときもついてきて」

本当のことを伝えた。熱で調子が悪い少女に、こんなことを伝えるのは酷なことだとわかっていた。
でも、これ以上、名前に振り回されるのも、名前を振り回すのも、お互いのためにならない。変な憧れを持たれているなら、はっきりとその希望を現実に導いてあげる必要があると思った。

「りつにいは、やさしいおにいちゃんだよ」

名前が、きょとんとした顔で口を開いた。

「名前がまだちっちゃかったとき、あにじゃがいなくてさびしくてないてたら、りつにいがびょういんまできてくれた。朝がくるまでいっしょにいてくれて、あたまもなでてくれた」

名前からその話を聞いたとき、自分でも驚くほど鮮明に、そのときのことを思い出した。それは数年前のことで、名前は今より少しだけ幼かったかもしれない。思えばあれが、初めて妹に触れたときだ。あんなに小さかったのに、名前があのときのことを覚えているなんて。

あのとき、手に触れた名前の髪の感触を、凛月は今なら思い出すことができる。

「……今もちっちゃいじゃん」
「ちっちゃくない……」

ちょっと頬を膨らませて、むっとした名前は、凛月にとっては変わらず小さかった。

「ただでさえ体が弱いんだから、心配させるようなことしないで」

心臓がきゅっとなる。
もしかしたら凛月は、自分でも気づかないうちにお兄ちゃんになっていたのかもしれない。

「りつにい、しんぱいしたの……?」
「は?……するわけないでしょ」

きょとんとした顔で名前に問いかけられて、凛月はわざと尖った言葉を返した。
心配したどうかといわれると、だいぶどきっとした。それが心配だと言われてしまえば、何も言い返せないけれど。

「兄者、呼んでくる」

なんとなく居づらくなって腰を上げると、小さな手が伸びてきた。

「りつにいがいい。となりにいて」

名前に見上げられて、凛月は何も答えなかった。
代わりに近くの椅子に腰かけて、何も喋らず、名前が眠りにつくのを見守った。