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名前はある日突然、凛月の前に現れた。名前は生まれてからずっと入院を繰り返していて、凛月は小さな妹に会ったことはほとんどなかった。何度か母親に頼まれて病室に顔をだしたことはあるが、大きな接触はない。


朝。凛月が重い腰を上げて学校へ行く準備をすると、名前がいつの間にか近寄ってきた。幼稚園に行くわけでもないのに、もともと通うはずだった幼稚園指定の制服を着て、大きな通学鞄を肩にかけている。名前が靴をはいたり、帽子をかぶったりするのを手伝うこともなく、凛月は自分のペースで家を出る。名前はそれに合わせてぱたぱたと準備をして、凛月の背中を追いかけた。

学校に着くと、凛月の席の近くで、名前のために用意された小さな机と椅子に座る。あとは授業が終わるまで、絵をかいたり、お昼寝をしたり。ほとんど凛月としていることは違わないのだけど。

「ふぁあ、ふ……」

一日の授業が終わって、そっと名前を横目で見ると、彼女は鞄にクレヨンやスケッチブックを片付けているところだった。凛月がいつ移動してもいいように、席を離れる準備は万全のようだ。

日によってはそのあとナイツのレッスンに赴く。もちろん名前も一緒。
ここまで、兄と妹が会話を交わすことはない。ただ、名前は一人で嬉しそうだった。
凛月のレッスン中も、名前は鞄からあやとりを取り出して、一人で遊んでいる。時折、兄の姿を目で追いかけては、満足そうに一人遊びに戻る。

「今日はここまでねぇ」

という泉の一言でレッスンは終わり、その場は解散になる。凛月が練習着から制服に着替えている間に、名前も帰宅の準備を整えて、立ち上がる。ぼーっとしていたら、兄に置いていかれてしまうから。

メンバーがそれぞれ帰っていくのに合わせて、凛月と名前も歩いて帰る。朝も昼も夕も、凛月と名前の歩幅は合わない。それでも懸命に兄の後を追う。

「あ」

噴水の手前まで来たときに凛月はスタジオにスマホを忘れたことに気づいた。あまり重要性は感じなかったが、真緒から連絡が入ったら困るし、ユニットメンバーからの急な要請が入るかもしれない。何より泉からの連絡は逃したらあとが面倒だろう。

「ちょっとここで待ってて」
「うん」

金魚の糞よろしく後をついてくる名前に言いつける。一緒にスタジオまでついてくるのが鬱陶しかったので、噴水前で待つように指示したのだ。これが兄妹の本日最初の会話。
名前はおとなしく頷いた。