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新しくやってきた保険医は朔間凛月という名前だった。わたしがわざわざ聞かなくても、周りの女生徒たちが話す内容で自然とわかった。先生はわたしと違って周りに溶け込むのが上手だった。

「凛月先生、すごくイケメンだよね」
「泉先生と同じ学校だったんだって」
「私、保険係になろうかな〜。なにか接点がほしいもん」
「え〜、ずるい!私も!」

盛り上がる教室の片隅で、わたしは窓の外を見る。



「あれ、名前だ。おはよう。どうしたの。また熱が出ちゃった?」

気がつけばわたしは保健室に足を運ぶようになっていた。
生徒の多い休み時間は避けて、授業の合間に仮病を使って教室を抜け出す。保健室に行くと朔間先生はいつもひらひらと手を振って出迎えてくれた。わたしが何も言わなくても、すっと紙とペンが机に用意される。

『先生は人気者です』

わたしが学校という場所でコミュニケーションをとるのは、この時間だけだった。コミュニケーションといっても、わたしは筆談で、声をだすことはない。でも、だれかと意思の疎通を図れるのは純粋にうれしいことだった。

「そう?俺はあんまりうるさくしてほしくないんだけど。最近の若い子は元気だよねぇ」

十分若い顔で、力なく笑う。

「名前はなにか好きなものとかないの?食べ物とか趣味とか」
『甘いものが好きです』
「へぇ〜、俺もすき。こう見えてお菓子作りが得意だったりする」

ちょっと自慢気に答える姿に、笑ってしまいそうになる。笑えたら、よかったのに。
わたしは昔から学校に来ると笑うことができなかった。表情を緩めることができなくて、おかげで言葉も発することができない。静かにしていることしか、わたしにできることはない。



「そうだ。じゃじゃーん。これ、なんだと思う」

ある日、朔間先生がわたしに一冊のノートを差し出した。
とうとうメモを用意するのが億劫になって、専用のノートを買い与えられたのかと思った。