ふぁあ、ふ……ねむい。
ま〜くんに連れてきてもらったのはいいけど、まだ頭は動いてないし、目を開けてるのも辛いかも。
――とことこ。
隣で小さな足音。あ、名前だ。
「おはよ〜、名前」
静かに登校してきた隣の席のちっちゃなゴリラに朝の挨拶。名前も意外と朝が弱そうなんだよねぇ。
「おはよう……」
ほら、まだ眠そう。一日の始まりにこんな暗い顔してるの、俺と名前ぐらいじゃない?
ふふ、名前の顔を見たらちょっと目が覚めた。目覚ましにぴったりだよねぇ。名前の足音とか匂いはもうすっかり覚えてしまった。
隣の席にこいつがいない日はちょっと気分が下がる。
鞄の中から荷物を取り出している名前をそっと観察した。教科書とか筆箱の前に、いつもの紙の束がでてくるあたり、まだ辞めたいとかなんとか思ってるんだろうなぁ。
どうにかして阻止したいけど、今は名前と一緒にいられるこの時間が大切だから、余計なことはしない。すぐに逃げられそうだし慎重にいかないとね。
*
授業中。なんの授業かは忘れたけど。教師の話なんて耳に入ってこないし。とりあえず寝るフリをして隣の名前を観察。
「…………」
あ、ウトウトしてる。かわいい。
たぶん名前も授業なんて真面目に聞いてない。俺はいいけど、名前はちゃんと聞いてたほうがいいんじゃない〜?
「……っ」
ウトウトしてたのがとうとう我慢できなかったのか、びくっとした拍子に名前の手からペンが飛び出す。
床に転がるシャーペン。
授業中に目立った動きはしたくないのかな。名前はきょろきょろオドオドして辺りを見渡している。眠そうだったのに、完全に目が覚めたみたい。リスみたいな動きが面白くてしばらく見守ってみる。
もう……それぐらい拾えばいいのに。
「はい」
様子をうかがっていたら、名前の前の席の奴がペンを拾った。そのまま名前に手渡す。
「あ、ありがとう、ございます」
消え入りそうな声でお礼を言う名前。二人の手が一瞬だけ触れ合う。
……なにこれ。なんか面白くない。なに見せられてんの。
俺が拾ってあげればよかった。
釈然としなくて嫌なことを忘れるように目を閉じた。
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