×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

夕方ごろになってお兄ちゃんがわたしを外に連れ出した。お兄ちゃんに手を引かれてたどりついたのは家の庭。そしてわたしに微笑みかけたお兄ちゃんが一言。


「僕と一緒に花火をしよう」
「やだ」


わたしは即答だった。

お兄ちゃんの横には困った顔の朝木さんが立っている。オフの日なのにお兄ちゃんの相手をさせられているなんて、ご苦労様です。


「え?なんて?ごめんね、お兄ちゃんにはちょっと聞こえなかった」


お兄ちゃんに聞こえなかったらたぶん誰にも聞こえない。


「都合の悪いことは聞こえないふりするのやめたほうがいいよ、聖夜」
「アサキは黙ってて」


いつものようにお兄ちゃんと朝木さんのやりとりが始まる。わたしは二人から視線を外してスマホに目を移した。お兄ちゃんの話をまともに聞いていると時間がもったいない。


「小さい頃はよくお庭で一緒に花火をしたよね?覚えてる?」


確かにそんなこともあったな、と小さい頃のことを思い出したとき、手の中のスマホが鳴った。相手は凛月だ。


「凛月から電話」
「は?スマホ貸して。切るから」


お兄ちゃんが何か言っているのを無視して電話にでる。


「もしもし」
『名前〜?いまなにしてんの』


凛月の声はいつもよりちょっと元気があった。日が落ちてきたから元気なのかな。


「そんな電話早く切って!僕と花火をするよ!」
「お兄ちゃんがうるさくて聞こえない」


右耳と左耳から違うテンションの声が聞こえるせいで、凛月の話が半分聞こえない。お兄ちゃんはまだ花火の袋を持って、わんわん喚いている。正直にいうとうるさい。


『また面倒なのに絡まれてんの?今からそっちに行こうと思ったのに』
「どうして」


凛月が来る、と知って急に嬉しくなった。わたしはあんまり嬉しさを表現するのが上手じゃないんだけど、凛月と会える日はいつもより楽しい気持ちになる。


『花火大会行こうよ。今ならまだ間に合いそうだし。行きたいって言ってたでしょ』


確かにそんなこと言ってた。覚えててくれたんだ。
もちろん行きたくてすぐに返事をしようとしたのに、隣でお兄ちゃんがわたしの手を引いた。


「名前!お兄ちゃんとの花火の約束はどうするの!」
「そんな約束してない」


右耳から聞こえるお兄ちゃんの抗議の声に反対すると、凛月が勘違いしたのか声を低くした。


『は?行きたいって言ってたじゃん』
「ちがう、凛月と行く」


慌ててスマホに向かって返事をする。凛月とはちゃんと約束してた。またすれ違って会えなくなるのは嫌だ。凛月の声に集中しないと。


『じゃあ今から迎えに行くね』


凛月の声がまたいつもの調子に戻ったので、わたしも嬉しくなる。早くでかける準備をしよう。

でも、電話を切ろうとしたタイミングで、お兄ちゃんが無理やり割り込んできた。


「はあ?朔間弟がなんだって?ちょっと電話貸して」
「待って」


抵抗する暇もなくスマホを奪われる。まだ通話中なのに。兄妹だからってしていいこととダメなことがあると思う。


「名前じゃなくて悪かったね、朔間弟」


その呼び方、嫌だってこの前凛月が言ってたのに。凛月がどんな反応をするか、電話の内容は聞こえないのにだいたい想像ができる。お兄ちゃんと凛月が仲良くなることなんてこの先どう考えてもありえない。


「あからさまな反応どうもありがとう。君が名前とどこへ行くのかは知らないけど、名前は君より先に僕と花火をする約束をしてるから、ごめんね」


してないよ、と隣で呟いてみたけれど、お兄ちゃんは聞いていない。わたしの隣で朝木さんが呆れたようにため息をつく。


「はあ?そんなのいつでもできる?この人気アイドルに向かってよくそんなことが言えるね?名前と一緒にいられる時間がどれだけ貴重なものか、君にはわからないんだ!」


急にお兄ちゃんの声が大きくなった。近所迷惑だし。たぶんスマホを介さなくても凛月の家まで届いてる。

わたしがスマホを奪い返そうと手を伸ばすと、お兄ちゃんはひょいっと避けてわたしから距離をとった。


「今日のところは譲れ?かわいくいえば許してもらえると思ってるなら大間違いだから!名前は絶対渡さない!……はあ!?だれがお兄さんだって?僕はおまえの兄になったつもりはないよ!だいたいおまえと名前が付き合うこと、まだ許した覚えがないんだけど!」

「いや、今さらそんなこと言われても、俺たちもう付き合ってるんですけど」


凛月!

すぐ近くで凛月の声がして、反射的に声がした方を振り返る。凛月だ。スマホを耳に当てたままわたしに手を振ってくれる。

お兄ちゃんは凛月の顔を見て一瞬で眉間に皺を寄せた。
あ、怒った。


「朔間……!!なに勝手に人の家に入ってきてるの!?不法侵入で通報するよ!あ〜もう!!とにかく名前は今から俺と花火をするから!!帰って!!」

「名前、行こっか」
「うん」

「ちょっと話聞いてる!?」


そこで、ずっと傍観していた朝木さんがお兄ちゃんを取りおさえるようにして割り込んできた。


「まあまあ聖夜、落ち着いて。凛月くん、名前ちゃんのこと頼んだよ〜。聖夜は今から俺と楽しく花火をすることになったから」


朝木さんがお兄ちゃんと肩を並べる。お兄ちゃん、いまアイドルだとは思えないほど顔を歪めた。そんなに嫌悪感を表に出さなくても。


「だれがおまえなんかと!」
「せっかくだから真昼たちも呼んで仲良くユニット活動しようよ。妹ちゃんのことは頼りになる騎士に任せてさ……♪」
「ありがとうございま〜す♪」


凛月が笑顔でお礼を言って、わたしと手を繋ぐ。
朝木さんごめんなさい。お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします。


「名前〜!!」


背後から聞こえるお兄ちゃんの声を振り切って、凛月と一緒に家を後にした。