腕の中で何かがもぞもぞ動く。逃げようとしてるの?でも、駄目。俺がそんな簡単に逃がすわけないじゃん。
「どこ行くの〜……?」
腕の中にいる名前に問いかける。
「朝だから、起きる」
「俺さっき寝たばかりなんだけど……」
時計を見たら、ベッドに入ってからまだ一時間も経っていなかった。ベッドに潜り込んで、先に寝てた名前を抱きしめたのがついさっきのこと。
「凛月は寝てて」
名前は俺の腕からするっと抜け出して、起き上がった。もう少し一緒にいたかったのに。
「え〜、でも朝ごはんは?」
「自分で作る」
今日の名前はなぜか目がきらきらしていた。
なに。いつの間に料理なんてできるようになったの。俺聞いてないんだけど。
「できるの?」
「食パン焼く」
ああ、なるほど。それなら名前でもできる。
「焦がさないように気をつけてね〜」
「うん」
ぱたぱたと、部屋を出て行く名前の後ろ姿を見つめる。見送ったものの、やっぱり気になるよねぇ。ふぁあ……ねむいけどちょっと見に行こ。
そっとキッチンを覗くと、ちょうどパンが焼きあがったところだった。名前がトースターからパンを取り出してじーっと見つめている。ちゃんと焼けた?……う〜ん、ここから見る限りだと許容範囲って感じ?ちょっと焦げてる気もするけど。
焼き加減は気にしないことにしたのか、名前は台所の戸棚から何かを取り出している。そんなところに何かあったっけ。
あ、イチゴジャム塗ってる。ジャムが好きなんだ。自分で買ってきたの?そんなところに置いてあったなんて。言ってくれないから知らなかったんだけど。
名前は丁寧にトーストにジャムを塗り終わると、椅子に座って両手を合わせる。いただきます。相変わらずもぐもぐしてる姿が小動物みたいで可愛い。昔は食べることに興味がなかったのに、俺と暮らすようになってから食事が楽しいらしいんだよねぇ。俺も料理するの楽しいし。
ふぁあ……ずっと見ていたいけどそろそろ限界。もう一回寝よ〜。
*
「凛月」
名前を呼ばれて目を開けると名前の顔が飛び込んできた。
「なあに〜……?」
「行ってくる」
もう行くの?
仕事の制服に着替えた名前は、いつもよりお姉さんに見えた。可愛い。もう何度も見たけど、よく似合ってる。
「お弁当わかった?」
寝る前に作ってあげたの。名前のお弁当を作るのも俺の仕事。っていうか、趣味かな。
「置いてあった」
ダンジョンでアイテムを見つけた、みたいな言い方しないでよ。俺が作って置いてあげたの。
でも、すぐに「ありがとう」と返ってきたので、よしとする。名前はいい子だねぇ。俺の教育がよかったのかな。
「早く帰ってくるね……凛月は、昼からお仕事?」
「うん」
なぜかそわそわしている名前が気になる。どうしたの?
「今日は一緒に寝れる?」
はあ?なにそれ、誘ってるの?
「ふふ、いいよ。一緒にねよっか」
「うん。早く帰るね」
ちょっと嬉しそうな名前を見て優越感に浸る。名前のこんな表情を見れるのは俺だけの特権。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
ぱたぱた早足で部屋をでていく姿を見送る。
さて、俺も仕事に備えて寝よ〜。
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