「うみだ!!すごーい!!」
「わはは☆すごいな〜!!」
リオとレオくんがはしゃぐ姿を離れたところで見守る。
今日は三人で海に来た。リオにとっては初めての海水浴。はしゃぐ気持ちもよくわかる。
わたしは水着を着る勇気なんてもうないし、ビーチパラソルの下で二人の姿を観察することになったんだけど。
「お姉さん、一人?」
急に背後から声をかけられて吃驚した。リオとレオくんに気を引かれていたせいで人が近づいてきたことにまったく気づかなかった。振り返った先には水着姿の男性が二人。
「あの」
変な人に絡まれるのは嫌だと思ってきっぱり断ろうとすると、わたしが動くより先に相手がわたしの背中に触れてきた。ちょっと……そういうの、不快なんですけど。
「こんなとこで座ってないで俺たちとあっちで遊ぼうよ」
うわ。少女漫画でしか見たことのない展開に、まさかわたしが巻き込まれるなんて。実際に経験するとすごく不愉快だ。だいたいわたしは一人じゃない。
「すみません、一人じゃないので」
「彼氏?どこどこ?」
相手がわざとらしく周りを見渡す。
彼氏、ではない。正確には夫と娘だ。
「家族で来てるので、他をあたってください」
「そんな嘘ついてもすぐバレるからね〜?ほら、行こうよ」
ぐいっと腕を掴まれる。嘘じゃないし、べたべた触れるのはほんとに無理。わたしが泉くんだったら、チョ〜うざぁい!って叫んでた。こんなおばさんよりもっと若い子をナンパしたらどうなの、と思いながら、本格的にやばいなと思ったとき。
「名前」
いつもより低い彼の声が聞こえた。
「そいつに何の用ですか」
レオくんが静かに現れた。真面目な顔をしてるとほんとに格好いいなと、こんなときなのに冷静に考えてしまう。
「ママっ」
レオくんの後ろからリオが飛び出してきた。そのまますごい勢いでわたしのもとに飛び込んできたので、慌てて抱きとめる。腕の中のリオはいつものレオくんの真似をして「がるるる……」と小さく威嚇していた。ちっちゃなライオンさんみたい。
「なんだ子連れかよ」
リオとレオくんを見た瞬間、男性二人の態度がころっと変わって、あっさりわたしのそばから離れていった。
「大丈夫か、名前。ごめんな、一人にして」
「ううん。ありがとう、レオくん」
ちょっと元気のないレオくんを安心させるために笑顔を見せる。助けに来てくれたんだね、ありがとう。
「ねぇ、ママもあっちでいっしょにおしろつくろ〜?パパとママのおしろだよ!」
リオがわたしの腕を引っ張って提案した。確かに二人と一緒にいたほうが良さそうだ。
静かに腰を上げると、リオと繋いでいないほうの手をレオくんにとられる。
「どうしたの、レオくん」
「べつに」
いつも騒がしいのに今日のレオくんはおとなしかった。
なんだかちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒。
(名前はおれのものなのに!)
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