ちょっと待って、海はさすがに無理なんだけど。考えてみてよ。この炎天下の中、俺を外に連れ出す気?一瞬で灰になる自信しかない。いくら名前の頼みでも、今回ばかりは無理。ごめんね、一緒に行ってあげられなくて。今度ケーキバイキングに連れてってあげるから、我慢してね。
「って言ったじゃん」
「でも、海に来たかった」
無理やり腕を引かれて着いた先はもちろん海だった。名前のそういう強情なところ、たまに苦手なんだけど。今回ばかりは俺の命に関わるからね。名前は俺のこと好きなんじゃないの?
「あっつい……日差しも強いし。すでに我慢の限界」
流れだす汗と照り返す太陽のせいで意識が朦朧としてる。日傘もほとんど効果を発揮してないし。だいたい名前だって人混みとか明るい場所は苦手でしょ。なんでまたこんなところに来たいなんていいだしたの。
「ねぇ、名前、やっぱり家に帰ろ」
今ならまだ引き返せると思って振り返ると、名前が着ていたパーカーを脱いだところだった。
は……?ちょっと、それ。
「人が多いの、わたしも苦手」
いやそうじゃなくて。
「ちょっと、露出しすぎじゃない?」
水着姿の名前を見た瞬間、暑さとか日差しの強さとかすべてが頭から吹っ飛んで、意識が鮮明になった。むしろ寒気さえ覚える。なにその可愛い水着。腕もお腹も足も出てるし、ガードしてる面積が小さすぎない?可愛いけど。そんな水着着ていいなんていった覚えないし。すごく可愛いけどね。お兄さんもこういうときに限ってなにもいわないんだから。俺に「近づくな」とかいう前に、妹の水着ぐらいチェックしといてよ。
「水着だから」
名前はちょっと視線を泳がせながら恥ずかしそうに俯く。俺の方が目のやり場に困るんだけど。
「上着、着て」
とりあえず周りの視線からガードするために、パーカーをもう一度羽織らせる。名前は抵抗したものの、最終的には大人しくいうことを聞いてくれた。
「暑い」
そんな可愛い水着着てくるからでしょ。
「いいから。せめて上だけでも隠してよ」
「……似合わない?」
「はあ?」
俺が必死になってることが違う意味で伝わったのか、名前が泣きそうな顔で呟いた。似合わないどころか似合いすぎて必死になってるの。なんでわからないかなぁ。
二人きりなら文句なんてなかったけど、他にも人がいるんだよ。特に男が。俺はそういうの許せないの。
「可愛いよ」
でも隠して。可愛いから。
「よかった」
俺の気持ちなんて知りもしない名前は、呑気に喜んでる。
その笑顔に負けて、今日はしばらく海に付き合ってあげるか、と思い始めている俺もだいぶ単純なんだけど。どうやって名前を周りの視線から守るかちゃんと考えないとね。
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