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「おいしい?」
「うん」


隣で静かにかき氷を食べている名前に問いかけると、名前は小さく頷いた。よくもまあその小さな身体にあれやこれや入るものだ。花火大会に行きたいっていうから連れてきてあげたけど、今日一日でどれだけ食べたんたんだろう。

もぐもぐしてるときの名前はたぶん一番幸せそうな顔をしてるから、俺はそれを見られるだけで幸せ。


「やっぱり飽きないねぇ」
「?」


俺の呟きに対して名前が首をかしげた。なに他人事みたいな顔してるの。あんたのことだよ。


「名前に飽きないってこと。あんたいつも新しいことばっかりしてくれるから、全然飽きない」


たまに刺激が強すぎるというか、突拍子も無いことをしてくるからひやひやするんだけど。かき氷を食べてる横顔は間違いなく可愛い。


「凛月も食べる?」


じっと見つめていたら名前がかき氷を差し出してきた。そういう意味で見てたわけじゃないんだけど。それ、あんたのでしょ。


「いいよ、俺は。見てるのが好きだから」


優しく断ると、名前はかき氷を差し出したまま動かなくなった。あれ。断ったら駄目だった?ほんとは一緒に食べたかったの?

一口くらいもらっておけばよかったかな、と後悔し始めたとき。名前の冷たい手が俺の腕に触れる。そのまま控えめに腕を引かれて、気が付いたら名前の顔がすぐ近くにあった。手よりも冷たい名前の唇が触れたのは一瞬。


「っ……!」


花火が打ち上がるのと、名前が離れていくのが同時だった。花火の音なのか、俺の心臓が止まった音なのか、よくわからない。


「したくなった」


俺の唇を奪った本人はいつもの無表情でそんなことを言いだす。


「そういうの反則……」


顔に熱が集まるのを感じて、慌てて顔をそらす。なんであんたは余裕があるのに、俺がこんなことで動揺しなきゃいけないわけ。名前からしてくるなんて初めてのことで頭が追い付かない。


「花火、綺麗だよ」


隣から聞こえる声があまりにも落ち着いていて、思わず空を見上げる。
綺麗だ。隣に名前がいるから余計にそう思える。


「ほんとだねぇ」


できる限り冷静を装って返したけど、かえって不自然だったかもしれない。あー……もう、いいや。べつにこの心臓の音が名前に伝わっても。


「凛月、重い」


開き直ったついでに名前の膝に頭を預けると、名前が言葉だけで抵抗してくる。重いとかいって、ほんとは恥ずかしいだけでしょ〜?キスしておいて膝枕くらいで今更恥ずかしがられてもねぇ。だれもいないからいいじゃん。


「失礼なこと言わないの。あ〜、幸せだね〜」
「うん」


来年もこうやって、一緒に過ごせたらいいな。