「ほんと飛び出すの好きなんだねぇ。おかげでまた目が覚めたじゃん」
彼はゆっくりわたしのもとに歩み寄ってきて、そのまま隣に座った。
距離を置く勇気もなくて、動けないままじっと身を固くする。
ふぁあ、と小さくあくびをした彼は、窓の外を見て目を細めた。
「ねむい……ここ日差しがきついし。灰になりそ〜」
だったら教室で寝てたらよかったのに。なんて、言えない。
「俺を歩かせたんだから、代償ぐらい払ってよ。……よいしょ」
そう言って、彼はわたしのほうに倒れこんできた。流れが自然すぎて抵抗する隙もない。
気が付いたら彼はわたしの膝の上で目を瞑っている。どういう状況なんだろう、これ。
「また、ま〜くんに怒られるかなぁ……まあ、それも嫌じゃないけど♪」
人の膝の上で寝ようとしてるし。
なぜか、小さいころ公園で一緒に遊んだ野良猫を思い出した。
あの子もこうやってすり寄ってきた。……じゃなくて。
「あの……」
「文句があるの……? せっかく授業さぼるんだし、俺の枕になってもいいじゃん。そのほうが時間も無駄にならないし、俺も心置きなく眠れるし〜?」
それでどうして膝枕をすることになるの。
男の子にこんなに近づいたのは初めてだ。お父さんとお兄ちゃんを除いては。
「なんで」
どうしてわたしに構うんだろう。放っておけばいいのに。いっそのこと無視してくれたほうが、変な気を使わなくて済む。あなたのことも、傷つけなくて済むんだ。
「俺のことは凛月でいいよぉ。仲良くしよー、名前」
「っ……」
名前を呼ばれた。ただそれだけなのに。
不思議なくらい突然、ずっとそのときを待っていたかのように、
涙が溢れだして止まらなくなった。一度流してしまったら、もう止まらない。
「たまには涙の味もいいかも〜♪ ふぁあ、ふ……ほんとに眠りそう」
それにこの人、なんかおかしい。
隣の席の男の子――凛月は、わたしが泣き止むまで、そばにいてくれた。
←