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「キミは最高のアイドルだ!他にこんな素晴らしい才能を持った人なんていないよ!」


聖夜くんの周りを付いて歩く日々。今までと同じだ。ボクは“彼ら”のそばにいる。いつだって、“彼ら”が望む言葉を浴びせるために。


「本当に?どうもありがとう。すごく嬉しいよ」


聖夜くんはいつも涼しい顔をしていた。本当に嬉しそうだった。


「聖夜くんならできるよ!だってキミは神様に選ばれたんだ!」
「そうかな?自信がついたよ、ありがとう真昼」


おかしいな、と思ったのは一週間が過ぎた頃だった。


「憧れちゃうな〜!ねぇ、もっと見せて!聖夜くんのキラキラした姿をもっともっと見たいよ!」
「真昼は褒め上手だね。君にそう言われるとなんでもできる気がする」


一週間だ。一週間ずっと彼のことを肯定し続けた。羨望の眼差しを送った。賞賛して尊敬して崇拝した。


「次のライブも楽しみにしてる!聖夜くんは完璧だから絶対にミスなんてしないよね!尊敬しちゃうよ!」
「ふふ、そうかな。朝木はそんなこと言ってくれないから困るよ。真昼はいい子だね。いつもありがとう」


なんで。


「聖夜くんは」


次の言葉を探した。毎日、毎日、聖夜くんにかける言葉を必死に考えた。もっと褒めたら。もっともっとプレッシャーをかければ。


――もう、やめてくれ……!!
――おまえの言葉が重いんだ!俺にはできない!これ以上俺を追い詰めないでくれ!


みんなそうだったよ。いつかはだめになる。そうして消えていく。ボクはそれを望んでいた。キミが、名字聖夜が、学院から姿を消す日を。






「真昼、いつもの言葉はないの?今日もライブなんだ。君の言葉を聞かせて」


二週間が過ぎたとき、ボクはもうなにも言えなかった。言葉を口にしたくなかった。いつもと変わらぬ顔でボクのところにやってきた聖夜くんは、ボクの言葉を求めてきた。


「やめて、もうなにもいいたくない。キミには何を言っても無駄だよ。だってキミはボクの言葉を超える才能を持ってる。面白くない」


頭が痛かった。こんなことは初めてだ。ボクの言葉が届かない。それどころか、聖夜くんは日に日に輝きを増していく。
聖夜くんはボクに言った。


「残念だな。『君ならもっとできると思ったのに。だって君は天才だから』」


ああ、そういうことか。ボクは嵌められたんだ。いつの間にか立場が逆転していたことに、気づきもしなかった。聖夜くんは、ボクがいつもしていることをしただけなんだ。


「人を賞賛するのにも、そろそろ飽きたんじゃない?真昼さえよければ、正式にボクとユニットを組んでほしい」


珍しく聖夜くんの瞳に光がなかった。その瞳を見て、ボクのスイッチが切れる。


「はあ?ボクがキミと?なんの得があるわけ?」


もういい子の演技をする必要なんてない。


「あるよ。ボクとユニットを組めば、キミの好きな嘘をたくさんつける。キミの二面性を売りにしよう。アイドルはありのままの姿では成り立たないからね。ファンを騙せばいいんだ」


軽々とそんなことを口にする聖夜くんは、ボクが今まで出会った中で一番歪んでいた。こんなに真っ直ぐ悪だくみができる人なんてそうそういない。


「聖夜くんはなんでアイドルになりたいの」


人のことなんて興味がなかった。初めて興味を示したのがそれだった。ボクを貶めてまでどうしてユニットが組みたいんだろう。きっと壮大な野望があるに違いない。


「かわいいお姫様を笑顔にするためだよ。ただそれだけ。そのために協力してほしいんだ」


聖夜くんは満面の笑みを浮かべた。そのお姫様のことが本当に大好きなんだって、なにも知らないボクにもよくわかった。

ボクはキミにもキミのお姫様にも興味なんてない。ぶっちゃけるとアイドルにだって興味がないんだ。ちょっと人よりかわいい顔に生まれてきたから、他の人には歩めない道を選んでみたかっただけで。

ここまできたらもう道なんて限られてる。聖夜くんはボクのしてきたことをもうとっくの昔に気づいてるみたいだし。


「いいよ、せーくん。仲良くしてあげる」


面白そうだから、付き合ってあげることにしたんだ。