名前はちょっとおれと似てるんだ。
手元の紙に思いついたメロディを書き殴る。ああ、もう、思い通りにならない。
愛されていると思っていた世界と、全部嘘だった現実。知ってしまったら元には戻れない。愛されていたのは自分ではない。だったらおれも名前も、だれが愛してくれるんだ。
名前が足音も立てずに離れていく。来たときと同じだ。初めて会ったときもそう。あいつはいつも静かだ。自分がそこにいるって、だれにも知られたくないから。
――わたしのことが必要ならどこにも行かないでください
あのとき名前が引き止めなくてもおれはどこにも行くつもりなんてなかった。
――おれのこと守ってくれるのか?
名前が守ってくれなくても、よかったんだ。おれは。あのときあいつらを守ることしか考えてなかった。落ちそうになったとき、名前に手を引かれて思ったんだ。おれもいたんだって。
名前はおれのことを必要としてくれる。
おれがここにいることを、教えてくれるんだ。
紙が足りなくなって地面に線を引く。今日は止まりそうにない。よくわからないけど、この溢れ出す思いを最高の曲にしてやるんだ。
なんでこんなに名前のことばかり考えてるんだろうな?
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