彼らの考えていることがわからない。
教室のドアを壊した得体のしれない女に「また明日」なんて言えるんだ。

もっと早く教えてくれればよかったのに。みんながわたしの行動一つ一つに視線をよこしてくるのは、今度はなにをするつもりだ、って観察してたんだ。
いやだ、もうそんなの耐えられない。


いろいろ考えだしたら止まらなくて、夜も眠れないし、朝が来ても眠れなかった。
そのまま、わたしは熱を出して、一日学校を休んだ。

これで一週間通った出席日数もまたゼロからやり直し。一か月連続登校って、絶対厳しい。


*


熱は一日で下がり、次の日からまた学校に通うことになった。
わたしが引きこもり生活から脱出したことで、家族は喜んでいるけど。他にだれが喜ぶっていうんだろう。


一日学校を休んだことで、特に何かが変わるというわけでもなく。
教室に足を運べばやっぱりまだ空気が重いし、周りからの視線が余計に気になる。

レポートは書けたとしても、出席日数を達成しないことには退学もできない。
だからここに来るしかないのだ。

そして今日は珍しく、朝から隣の男の子がちゃんと登校していた。珍しい。


わたしを置いてどんどん進んでいく授業。置いていかれてるのは授業だけじゃないか。
でも、ここで友達を作るのはどう考えたって無理だ。


「名字」


わたしは、


「おい、名字?」


そこでやっと自分が呼ばれていることに気づいた。黒板を背にして教師がわたしを見ている。

そうだ、授業中だった。
指名されたと気が付いたときには、周りはしーんと静まり返っていた。


「あ……えっと」


いまは何の授業だっけ。どこまで進んだの。何を問われている?教科書……何ページ?
なぜわたしを当てたの。

机に広がっているのは、レポート用紙だけだった。


わたしが声もだせずに黙っているせいで、ぽつぽつとみんながわたしを振り返る。
だめだ。息ができない。
なんでみんなわたしを見るの。またわたしを笑うの。


「名字? 大丈夫か?」


教師の困った顔を見て、わたしは席を立った。

そのまま、


「すみません」


教室を飛び出した。