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今日が何の日か。
気づいてないのはおそらく本人だけだ。
だからわたしとリオが部屋を訪れても。


「ごめん、後にして」


こっちを見もせずに言葉だけが返ってくる。
一昨日から部屋にこもったまま出てこないと思ったら、まさかこんな大切な日まで仕事なんて。レオくんらしいけど。


「パパいそがしいの?」


リオと一緒にレオくんの部屋から出ると、小声でリオが聞いてくる。せっかくプレゼントも用意したのにね。


「そうみたい。そっとしておこっか」
「たんじょうびなのに、たいへん」


リオは手に持ったプレゼントをじっと見つめる。ほんとは二人でプレゼントを渡して、レオくんが喜ぶ姿を見たかったんだけど。


「リオ、いっしょにケーキつくる?」
「うん!」


プレゼントは後にして、先にケーキを作ることにした。レオくん、早く仕事終わらせないと、リオと二人でケーキ食べちゃうからね。

*


夕方ごろになって、再びリオと二人でレオくんの部屋を訪れる。出てきた形跡がないんだけど、だいぶ集中してるみたい。
軽くノックして扉を開けると、レオくんがこちらを振り返った。


「レオくん、いまいい?」
「いいぞ!どうした?」


さっきとは違う返事に、リオと一緒に安堵する。わたしたちが一度来たことに気づいていないみたいだ。


「パパ、おたんじょうびおめでと〜!」


リオがすごい勢いでレオくんに一枚の紙を差し出す。やっと渡せて嬉しいみたい。


「これは!?」
「パパだよ!」


リオの自信作だよね。


「宇宙人じゃないぞ!え、なんで!?」
「だってパパをかいたんだもん」


リオは絵が上手なのに、レオくんを描くといつも宇宙人みたいな変な生き物を描く。でも、今回はだれがどうみてもレオくんだ。


「だって、パパをかいたんだもん」


ちょっと恥ずかしそうに答える。
リオは、いつも照れてしまって、かっこいいパパを描くことができないんだって。


「リオのそういうところママにそっくりだな〜。ありがとう、大切にするよ!」


どういうところの話だ、それ。


「ママも!」


ぼーっとしていると、リオに手を引かれる。
あ、はい。そうだね。わたしも言わないと。


「あ〜、うん。その、誕生日おめでとう。いつもありがとう、レオくん……大好きだよ」


変に意識したら絶対言えないと思って思い切って伝える。ちょっと軽かったかな。でも気持ちは本気だし。いや、本気ってなんか恥ずかしいけど。


「じゃあ俺からは名前の『大好きだよ』を録音したデータあげるね。王さま、誕生日おめでと〜」


凛月くんはいつもそうやって人のことをプレゼントに……って。


「凛月くん、いつの間に!?というか……はあ!?」


急にここにいるはずのない人の声が聞こえて、部屋を見渡す。ソファの上にかけてあるブランケットがもぞもぞと動いて、凛月くんが登場した。

ちょっと、いろいろ聞きたいことがあるんですが、とりあえず録音云々の説明をして。


「リッツは今度の仕事の手伝いに来てくれてたんだ。ごめんな、言ってなかった!」


それ、いつものことだけど!
レオくんの事後報告には慣れましたけど!
凛月くんは、もうほぼうちの住人みたいになってるし!


「……リッツ、さっきのほんとに録音したのか?おまえすごいな。あとで送って?」
「うん、いいよ〜。俺が持っててもしょうがないし」
「送るな!!」


小声で話しても聞こえてるから!


「りっちゃん、リオと遊んで〜!」
「え〜、仕事が終わったからそろそろ寝たいんだけど」


リオは凛月くんが現れたことに驚くどころか嬉しいようで、さっそく構ってアピールを始めている。こら、リオ。凛月くんはママとお話があるからまた後でね。


「あそんで!りっちゃんとあそびたい〜!おうさまのいうことはぜったいだよ!」
「王さまの真似しても無理だから。夜になったら遊んであげる」
「よるはリオねちゃうもん!」


リオと凛月くんの会話を聞き流しながら、レオくんのもとに行く。なんか、こうやって面と向かって話すの、久しぶりな気がしてちょっとどきどきするんだけど。


「ケーキ用意してあるからあとで降りて来てね。よかったら凛月くんも」
「うん、あとで行く!ありがとな、名前」


そう言って笑う。
レオくんのその笑顔が好きだ。
また来年もこうやってお祝いできたらいいな。


「それと」


急にレオくんに手を取られる。
なんだ?と思って身構えたわたしを、レオくんは真っ直ぐ見つめた。


「おれも大好きだよ」


時が止まる。
いつも聞いているセリフなのに、なぜか泣きそうになった。
ありがとう、レオくん。
誕生日おめでとう。


「パパとママ、いいかんじ?」
「そうだねぇ。邪魔しちゃ悪いから、俺は寝ようかなぁ……ふぁあふ」
「りっちゃん、ねちゃだめ!リオとあそぶの!!」