※リクエストを頂いた【レオと泉を「お兄ちゃん」と呼んでしまって二人にもう一回呼んで欲しいと言われる話】です。なぜか凛月もでてきます。
ちょっとした呼び間違いだった。
「お兄ちゃん……あ」
だって今まで家にいる時間の方が長かったし、お兄ちゃんって呼び慣れてるからつい口からでてしまったというか。
ちなみにわたしが呼びたかったのは月永先輩と瀬名先輩だったんだけど。
「なんだ?」
月永先輩はすごく自然な流れでわたしを振り返った。
でもその隣にいた瀬名先輩が面白いものをみつけた、という謎の笑顔でわたしを見てくる。
「へぇ、『お兄ちゃん』ねぇ」
復唱しないでください。
これはまずいことになったと思っていると、月永先輩がやっとわたしのミスに気づいた。
「間違えたんだな!おれもよくある!名前はおれの妹とちょっと似てるんだよな〜!恥ずかしがり屋なところとか!なあ、もう一回お兄ちゃんって呼んで☆」
その何気無い一言のおかげで面倒なことになったんだ。
「嫌です」
「いいんだよぉ、たまには『お兄ちゃん』って呼んでくれても。ほら、呼んでみな」
瀬名先輩が乗ってきた。嫌な予感はしていたけど。
わたし男の子にからかわれるの、苦手なのに。
一回呼ぶだけで丸くおさまるなら潔く呼んでしまったほうがいい。ごたごたするの、あまり好きではないし。
呼吸を整えて口を開く。
お兄ちゃん、なんて言い慣れた言葉だから大丈夫。
「おに」
「え?セッちゃんが鬼?名前勇気ある〜」
言い終わらないうちに背後から声が降ってくる。耳元で凛月の声がしたせいでわたしはちょっとだけ飛び上がった。心臓が止まるかと思った。
「……り、凛月」
「ねぇ、俺のこともお兄ちゃんって呼んでよ。凛月お兄ちゃんって……♪」
凛月はどこからでてきたんだろう。またわたしの視界に入らないところでお昼寝でもしていたのだろうか。いずれにせよ、驚かせておいてそんな勝手なこと言われても困る。そもそも凛月はこの話に関係ないし。
「嫌だ」
「いいじゃん、減るものじゃないし」
そういう問題じゃない。
年上とはいえ同級生なのに、お兄ちゃんなんて呼びたくない。
「さっき呼ぼうとしてたでしょぉ?くまくんが邪魔するから」
「さっきのはセッちゃんが鬼ってことでしょ。それより俺のほうがいつもお兄ちゃんしてあげてるんだけど」
「はあ?だれが鬼だってぇ?もう一回言ってみなぁ!」
そうこうしている間に瀬名先輩と凛月の間で言い合いになる。こんなことで喧嘩しないでほしい。
「なあ、先に言ったのはおれだぞ?それにおれが一番お兄ちゃんだろ」
珍しく静かにしていた月永先輩が二人の間に入っていった。そんな度胸わたしにはない。
もうできることなら早く家に帰ってベッドで寝たい気分。
「ちょっと早く生まれたからってお兄ちゃんアピールしないでくれる?あんたは手がかかる子どもなんだから静かにしてて」
「むっ、なんだと!おれだって名前にお兄ちゃんって呼ばれたい!」
「王さまには妹がいるじゃん」
「くまくんにもお兄ちゃんがいるよねぇ」
「はあ?あんなの兄じゃないし」
飛び火した火がさらに違う場所に引火してどんどん悪化していく。消化活動を怠るとこういうことになるんだ。もうこのままじゃ手のつけようがなくなる。火種は小さいうちに消しておかないといけないけど、まだ間に合うだろうか。
「あの」
勇気をだして口を開くと、三人が急に静かになった。そ、そんなぴったり黙られるとそれはそれで緊張するというか。
「落ち着いてください……お兄ちゃん」
この流れで言うしかないと思って呼んでみた。
もし本当に三人がお兄ちゃんだったら、わたしはもっと違う生き方ができたのかな。
お兄ちゃんと呼んでみたのはいいけれど、三人の反応がない。
やっぱりタイミングを間違った?
でもわたしはそういうノリに乗れるような性格じゃないから。許してほしい。
と後悔していると。
「ねぇ、もう一回言って」
凛月がやけに真剣な顔で要求してきて。
「不意打ちすぎてちゃんと聞けなかった!」
霊感が湧いてきそう!もう一回!と月永先輩が騒ぎ出し。
「いいんじゃない?たまに聞かせてよ」
瀬名先輩はちょっと楽しそうだった。
この三人がお兄ちゃんだったらやっぱりわたしは違う理由で困っていたと思います。
そのあと、三人からこの話を聞いた鳴上くんが。
「アタシのことはお姉ちゃんって呼んでいいのよォ♪」
なんて言ってくるし。
「では私はお姉さまとお呼びしますね!」
司くんもなぜか一人で目を輝かせていた。
恥ずかしいからやめてください。
←