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「帰って!いますぐに!」
「聖夜!落ち着けって」


うわ。嫌な予感はしていたけど、忘れていた。
名前のお母さんに会ったとき、お兄さんが来るから気を付けたほうがいいとかなんとか言ってたけど、こういうことか。


「なんで君たちが無事でうちの名前が病院に運ばれてるわけ!だから反対したんだ!夢ノ咲なんて!名前に無理させる必要なんてなかったのに!」


駆け寄ってきた勢いでお兄さんが殴りかかろうとしてくる。すんでのところで後ろからやってきた人に羽交い絞めにされてお兄さんは捕獲された。取り押さえている相手は、慣れた様子で俺たちに視線を移す。


「ごめんね、ちょっと混乱してるだけだから……聖夜、さっき電話があって命に別状はないって言ってたよ。意識さえ戻れば大丈夫だって」
「はあ?戻らなきゃ困るでしょ。僕の名前を奪う権利なんてだれにもないの!」


通り過ぎる患者さんが何事かとこっちを見ている。
お兄さんはまるで自分が経験したことみたいに名前のことを口にした。


「可哀想に。血が出たって聞いたよ。もし僕のかわいい名前に一生残らないような傷が残ったらだれが責任をとってくれるの!」

「俺がとります」


自分で言って自分が一番驚いた。頭で考える前に言葉が先に出ていた。口にした途端、飛びかかってきたお兄さんに胸倉をつかまれる。


「君なんかに任せるわけないでしょ!俺が名前のことを一生守るって、あの子が生まれた時からずっと決まってるんだから!」


ああ、そういうことか。
この人に守られてるからあいつはいつもあんな顔するんだ。

なんで後から生まれただけで、当たり前みたいに守られなければいけないんだろう。そんなこと望んでないのに。お兄さんはきっと欲しいものや望むものはなんでも与えられて、大切な妹もいるから、比べられることの恐ろしさなんて知りもしないんだ。これじゃあ好きだと思いたいのに、いつまで経っても平等にはなれない。


「はいはい、俺モードがでてるからそろそろ黙ろうね〜、聖夜?みんな引いてるから」


そっと引き離されて圧迫感から解放される。


「今日はありがとう、助かったよ。君たちには悪いけど、ややこしいことになりそうだから今日のところは一旦帰ってもらってもいいかな。彼女のことは学校を通じて君たちに伝えるように先生に頼んでおくから」


この人の言う通り今は撤退したほうがよさそう。
だれも何も言わないのに全員気持ちは同じで、静かに頭を下げてからその場をあとにした。背後から聞こえる声に、心の中でため息を吐く。


「金輪際、名前には近づかないで!顔も見たくない!」
「後輩に向かって言うことじゃないからな〜」