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「命に別状はないって。意識はまだ戻らないけど」


名前のお母さんから聞いた言葉をそのままみんなに伝える。重体ではないと聞いたけど、自分の目で見るまで実感が湧かなかった。


「よかった」


最初にそう言ったのはセッちゃんだった。
王さまはずっと病室の扉を見つめている。


「名字先輩……」
「司ちゃん、大丈夫よ。名前ちゃんは強いからすぐに元気になるわ」


ナッちゃんはス〜ちゃんを安心させようと声をかけていた。この状況をちゃんと理解している人なんてたぶんこの場所にはいない。窓の外が暗くなっていて、病院の中は驚くほど静かだった。


「なるくん、“あいつ”は?」


セッちゃんがだいぶ迷ってから口にした。
名前のことがあって考える余裕なんてなかった。


「すぐに追いかけたんだけど、見失っちゃったのよ。アタシの足でも追いつけないなんて相当ね」
「見覚えはないの?」
「後ろ姿だけじゃなんとも言えないわ。上履きの色を見る限り二年生なのは間違いないけど」


ナッちゃんでも追い付けないとか、逃げ足速すぎ。
でもあのときあいつが背中を押したのは俺だった。どうして。一番後ろにいたから?
違う。一番後ろにいたのは名前だ。

でも名前じゃなかった。名前は必要だったんだ。俺は必要なかった。俺たちは必要なかった。
それってつまり。

名前、やっぱりなにか隠してる。


「おれのせいだ」


王さまの声で現実に引き戻される。
病院につくまでの間、王さまは一言も喋らなかった。

セッちゃんが目を細める。


「は?」
「おれが『守って』とか『騎士だ』とか言ったから。あいつ勘違いしたんだ。こういう意味で言ったわけじゃなかったのに」
「そんなこと言ったら俺のせいでもあるでしょ。あいつが落ちたのは俺がバランスを崩したのが原因だし。俺がゴリラゴリラって呼んでるから、自分のことほんとにゴリラかなにかと勘違いしたのかも」


きっと、だれのせいでもない。
全員が黙り込んだとき、廊下の奥から大きな声が響いてきた。この声。