「凛月」
名前の声に振り返ったのと同じくらいのタイミングで、強い力に背中を押される。
相手の顔はよく見えない。名前の隣にだれかがいることはわかった。
でも、まさかこんなことになるなんて。
「名前!」
そのときのことはよく覚えている。
名前が飛び出していくのも、落ちていく姿も、忘れられないくらい鮮明に記憶している。何もできなかったことも。
引き上げられたセッちゃんと王さまを確認して、名前のもとへ向かう。
「待ちなさい!」
ナッちゃんがだれかを追いかけて走り出したことが声だけでわかった。
俺は階段を駆け下りて名前のもとへ急いだ。横になったまま動かない名前の横に膝をついて体に触れる。名前?
「名前」
名前を呼んでも反応がない。
何かが視界に入ってすぐには理解できなかった。
血だった。目にした途端、ぎょっとした。
「救急車呼んで!早く!」
俺が叫ぶと、セッちゃんがすぐにスマホを取り出した。その間も名前は目を瞑ったまま動かなくて、息をしているのかさえわからなかった。
こんな状態で名前そばを離れることなんてできない。一人にしたらいつの間にか消えてしまいそうだから。小さな手をとってぎゅっと握りしめる。
「名前」
まだ遠くには行ってない。行かないで、という意味を込めて名前の名前を呼び続けた。
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