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「ボタン、わたしがつけていいの」
「うん。名前がいいんだよ」


凛月の声はちょっと笑っていた。
久しぶりだ。


「よかった。凛月は初めてできた友達だから」


友達。
口にした途端、凛月の腕から解放される。
凛月がどんな顔をしているのか見たくて顔を上げると、紅い瞳と目があった。


「凛月?」


名前を呼んだら半ば無理やり手を繋がれる。


「俺、名前のことが」


凛月の瞳に吸い込まれそうになったとき、すぱーん!と大きな音を立てて病室の扉が開いた。


「朔間!!」


扉の向こうに立っていたのはお兄ちゃんだった。その後ろで、衝撃で外れかけた扉を朝木さんが支えている。廊下を通り過ぎる患者さんが飛び上がっているのがちらっと目に入った。


「うわ……きた」


凛月、聞こえるから。


「朔間は許さないって言ったよね!?なんでこいつがここにいるわけ!いますぐ名前から離れて!その手を離しなさい!」


一気に病室が騒がしくなる。
凛月はお兄ちゃんに背中を向けたまま小さくため息をついた。
扉の修復を終えた朝木さんがお兄ちゃんを抑え込む。


「聖夜!馬鹿、二人きりのところに乗り込むやつがあるか?どう考えても邪魔だから!」
「邪魔するために来たんだよ!早くここから出ていって!何度も同じこと言わせないでよ!そして名前にはもう一生近づかないでくれる!?名前が無事だったからよかったものの、彼女に何かあったらどうしてたんだ!」


ここが病院だということはお兄ちゃんには関係ないみたいだ。わたしが運ばれたときもこんな状態だったのだろう。


「だからそれはこの前言ったじゃん……兄者より面倒かも」


わんわん吠えているお兄ちゃんを横目に凛月が呟いた。
凛月、さっき何か言いかけなかった?

お兄ちゃんが朝木さんに取り押さえられている間に、凛月がわたしの手を離す。


「凛月、待って」


離れていく凛月の背中を見て、咄嗟に彼の服の袖を掴んだ。


「なに」


ちょっと焦った様子で凛月が振り向いた。
お兄ちゃんは朝木さんが相手をしてくれているから今なら大丈夫そう。


「また、会える?」


凛月を見上げて小さな声で問いかける。
お兄ちゃんがもう一生近づかないで、なんていうから、本気にしてたらどうしようって不安になったんだ。

わたしの問いに、凛月は小さく笑うとベッドに腰掛けているわたしに目線を合わせて答えてくれる。


「会えるよ。会いに来る」


よかった。
じゃあ、わたしも頑張る。早く退院してまた一か月学校に通うんだ。