「真っ暗」
手を引いて外に出ると、名前は珍しそうに周りをきょろきょろ見渡した。
なんか楽しそうなんだけど、こいつ。いつも死んだ魚みたいな目をしてるくせに。
「ふらふらしてるけど大丈夫?ねぇ、ちょっと……寄り道しないで真っ直ぐ帰るよ」
なんで俺がお兄ちゃんみたいになってるわけ?
手を引かれるのはいつも俺の方なんだけど。ま〜くんの気持ちがちょっとわかった。
「こんな時間に外に出たの初めてです」
ふ〜ん、そう。
俺にとっては普通なんだけど、名前にとっては特別なんだ。
「わかったから真っ直ぐ歩いてよねぇ」
目を離したら暗闇に消えてしまいそうな名前の手を引いて、無言で夜道を歩いた。
*
「名前!どこに行ってたの!」
「お兄ちゃん」
名前を家の前まで送ると、どっかで見たことある顔が待っていた。
名字って。
なんだ、そういうことか。
「急に飛び出していくから、心配したんだよ。こんな時間までどこにいたの?何度も連絡したの、に……」
あー、こわいこわい。
目が合った気がして逸らす。
視線が痛いんだけど?
俺じゃなくて妹のことを見てあげたらいいのに。今にも刺されそう。
「ごめんなさい」
名前はいつもの死んだ魚みたいな目に戻って俯いている。
もうちょっとだけ家出に付き合ってあげてもよかったかな、なんて。小さい背中を見て思った。
「凛月、ありがとう」
「うん、また明日」
あんまり長居すると俺の命が危ういからねぇ。
ずっと俺のことを見ている視線には気づかないふりをして、元来た道を引き返す。
面倒なことになったなぁ。
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