リドルとミヒャエラが仲良くなりはじめてしばらく後、ホグワーツには毎年恒例のハロウィーンパーティーがやってきた。
ミヒャエラは三回目の朝から続くカボチャの匂いと、甘い匂いに顔をしかめながらベッドから降りると、ささっと制服へ着替えた。隣のベッドからミサピノアが起き上がる音が聞こえたので、おはようと声をかければ、おはようミヒャエラとはっきりとした声で返ってくる。ふたりとも朝は苦手ではないのだ。


「ミヒャエラ、今夜の話は聞いているかしら?」

「え?何かあるの?」

「スラグホーン先生からちらりと伺ったのだけれどね、今日の最後の授業でちょっとしたお知らせがあるそうなの」

「お知らせ?一体なにかしら。ハロウィーンパーティに誰か有名人でも呼んでくれたのかしら」


ミサピノアもそこまで詳しくは知らず、先生たちに気に入られているミヒャエラならば何か知っているのではと聞いてくれたようだ。結局二人で話していても真相が分かるわけではないので、カーディガンとローブもしっかり着込むと二人は談話室へと向かった。
女子寮の出入り口に近づくにつれて、何やら話し声が聞こえてくる。大半はきゃあきゃあという女子生徒の黄色い声だが、時折心地の良い低音が交じる。ミヒャエラにも聞き馴染みのあるリドルの声だ。
二人が談話室へ足を踏み入れると、その騒がしさはピタリととまった。


「やあ、おはよう、カゲヌイ」


爽やかな優等生の笑顔を向けられたミヒャエラは面食らった。さらに言えば、付け足したように「ミス・ブラックも」というリドルの言葉に困惑した。


「お、おはよう、リドル。」

「良かったら、今日は一緒に朝食を取らないかい?あー、その、良ければ、僕とブリシュウィック、君とブラックで。」


その声に、周囲の女子からは避難の視線が突き刺さる。ジンボ・ブリシュウィックは確か、ミサピノアに熱をあげているので、女子生徒の恐ろしい視線はミヒャエラにだけ突き刺さっている。
リドルは恐らく、友人の恋路を応援したいのだろうが、ミヒャエラからすればたまったものではない。出来得る限り平穏に過ごしたいというのに、リドルと仲良くしていることが周囲にバレてしまえば、かっこうの的にしかなれない。


「構わないわよ。ねえミヒャエラ」

「ええ…そうね。ご一緒させていただこうかしら」

「ありがとう、カゲヌイ。それじゃあ行こうか。ジンボ、君好みの美人をエスコートしなくて良いのかい?」


リドルに促されたブリシュウィックがミサピノアをエスコートして談話室を後にし、さも当然と言わんばかりにミヒャエラはリドルにエスコートされて談話室を出た。

それからはもう、分かっていたことだった。
親しげに話す四人に、スリザリンだけではなく他の寮、なんと仲が良くないはずのグリフィンドールからでさえ鋭い視線を向けられるのだ。後々の生活が恐ろしくて、ミヒャエラはその日の朝食の味をよく覚えていない。それどころか、何を食べたかすら思い出せない。



とんでもない朝食を摂ったその日、昼食もなぜか四人で摂ることになり、最後の授業である魔法薬学の時にはクラスの女子、ミサピノア以外の全員がミヒャエラを睨んでいるような状況だった。


「そうだ、ここで1つ大切なお知らせがある」


スラグホーン先生の言葉に、後片付けをしていた生徒たちがピタリと止まった。手を動かしながら聞くようにと言われても、皆の手はどこかごこちなく動いている。


「今日はハロウィーンパーティだ。しかし、今年のクリスマスには、更に盛大なパーティが開かれる。ちょっとしたダンスパーティーだ」

「ダンスパーティー!?」


そう聞いたのは、恐らくグリフィンドールの生徒だっただろう。
もしかしたらその生徒はマグル出身で、ダンスなんて踊ったことがないのかもしれない。ミヒャエラも同じように冷や汗ものだ。神々への奉納である舞いであれば教養はあるが、パーティで踊るダンスというものは全く興味が無く、披露する場も必要とされる場も今まで存在しなかった。

スラグホーン先生は今夜はローブで踊れるように、ちょっとした広場を大広間へ作ってあるので、参加したい生徒はぜひ踊るようにと言って授業を終わらせた。


「ミサ、どうしましょう。」

「もしかしてミヒャエラ、踊れないの?あー、そうよね、日本ではダンスパーティーって無いのだったわね」

「今夜のは良いとしても、クリスマスよ、問題は!ああ、でも別に強制ではないのだから、参加しなければ良いのかしら」

「それじゃあ、今夜からさっそく私と練習しましょう。いざとなったら二人で壁の花というのも悪くないと思うのよ。身構えないでリラックスして」


二人が地下牢教室を出て大広間へ向かおうとすれば、さも当然のようにリドルとブリシュウィックがやってきて、前方にミサピノアとブリシュウィックが、後方にリドルとミヒャエラが並んであるきはじめてしまった。彼らのこの能力は一体どのようなものなのだろうか。英国男性であれば誰でもできるのかと聞いてみたいほどスムーズに、彼らは四人であるき出した。
前の二人が楽しそうに今日のパーティについて話しているのを聞くと、ミヒャエラはいたたまれなくなった。元より、日本人で、確かに両親ともに魔法使いで純血一族ではあるが、さほどマグルに対して排他的ではないし、スリザリンらしくないという劣等感もあった。そこへさらに英国貴族でないという劣等感が加わってしまったら、今にも潰れてしまいそうだ。


「ところでカゲヌイは、今夜のパーティは踊るのかい?」

「あなたっていつも私に何か聞いてばかりな気がするわ」

「そんなことはないさ。いや、ここは『そう思うかい?』と返すべきだったかな」

「意地悪ね。踊らないわよ、だって私、まだこの国へきて二年と少しかたっていないのだもの。西洋のダンスは踊れないわ。」

「じゃあ僕と一緒に抜け出してしまおうか?」


えっと声をあげて顔を見上げると、思った以上に自分のそば、そして思ったよりも高い場所に彼の顔はあった。






2017/10/12 今昔
ミサピノア・ブラック。1826年生まれの純血魔女。
ジンボ・ブリシュウィック。生年没年不明の純血魔法使い。
原作では家系図でのみ登場している夫婦です。




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