リドルが聞くミヒャエラの話は、なんとも摩訶不思議なものであった。
東洋人らしい黒い前髪を透かしてこちらを見る瞳はまっすぐで、とても嘘を言っているようには感じられない。


「イギリスの…というようも、一般的な魔法族は恐らく知らないことだろうから、リドルも知らないと思う。例えばの話なのだけれど、魔法使いと魔女は違うって知ってる?」

「いや…初耳だ」

「魔法使いというのは今の私達のような者のことを言うの。それに対して、魔力を込めて衣類を作ったり魔法薬をはじめとする家庭的な薬を作ること、薬草学なんかに長けた女性を魔女と呼ぶのだそうよ。私の一族は、このくくりで言えば魔女でもある」


初耳だ。
リドルは幼い頃から魔力を攻撃として行使することが得意だったが、魔力を込めた洋服を作ったこともないし、まして学校の授業で習う以外の魔法薬に関することは一切知らない。ミヒャエラが呪文を使わなくても傷を癒やしたり魔力を込めて作ることで防具となると続け、リドルは再度目を見開いた。


「私は…私の一族は陰陽師。言ってしまえば、東洋流の魔法を使う者」


東洋の魔法使い−−陰陽術を行使する一族。


「私達は魔力を使わずに、魔法と同じような現象を引き起こす事ができるわ。」

「ではやはり、あの炎の蛇も魔法ではなく?」

「そうよ。あれは私の生まれ持った属性が暴走した結果…」




私たち東洋の魔法使いは陰陽師と呼ばれているの。
日本では万物に神がやどり、神やカムイ、魔物、霊、あやかし者が居ると信じている。ええ、そうよ。私たちの陰陽術はそういった人ならざるもののチカラを借りて行うの。だから西洋の魔法とは根本的に違うものだとも言えるわね。西洋の魔法は己のうちに秘めたる魔力を外へ放出することだから。

ただし、霊力だとか妖力だとか呼ばれるものを持ち合わせて居ないと、人ならざるものに呼びかけることが出来ないから、その点については魔法と似ているわ。魔法使いは自分の魔力でもってしてこの世の理を書き換えていくけれど、陰陽師は自分の霊力で人外に呼びかけて事象を起こしてもらう。
このあたりは西洋と東洋の「神」に対する考え方の違いも大きいと思うわ。

だから東洋からは…特に日本からは魔法使いが生まれにくい。もとより霊力や妖力を用いて能力を発動する関係上、魔力を会得しにくいのかもしれないわね。
けれどわたしは家系的に両方を持って生まれた。だからホグワーツへ通うことになったのよ。




彼女の話を聞き終えたリドルは、しばし目を閉じた。
やはり、彼女がほしい。自分の戦力として。もしその霊力からくる能力をふるったとしたら、西洋の魔法使いたちは対処なんて出来ない。それはあの狸のような変身術教師で立証された。魔法使いに相対したときのマグルと同じで、未知のものには対応が遅れるものだ。まして呪文の強制終了や盾の呪文が効力を発揮しないとなれば、闇払いだって相手にできるだろう。

問題は、どうやってミヒャエラを自分のものにするかだ。


「ああ、それと、これもリドルに言っておこうと思っていたのだけれど」

「……何だ?」

「ミヒャエラというのはホグワーツに通うにあたって付けてもらった名前よ。日本ではまたちょっと違う名前があるの。」


似たような意味だから大差ないけれどねと微笑んだ彼女は、いたずらが成功した時のような楽しげな笑顔を浮かべていた。

この笑顔はどこか、ダンブルドアたちに通ずるものがあるとリドルは思う。けれど彼女の根源にある考え方は決して「混血歓迎主義」ではない。日本は閉鎖的な国ではあるが、彼女は比較的どんな思想も受け入れているようだ。この世界大戦がはじまった今となってはかなり珍しい人種だろう。


「わたしたち魔法使いは、なんとなくだけれど、お互いの魔力量がわかるわよね」

「そうだね、だから僕はこういう地位を築けている。有名な純血家の連中が気兼ねなく声をかけてくれるのもそこにあるだろう。血統に次いで、魔力量は地位につながる」

「わたしたち陰陽師も同じよ。わたしには歴代当主と並べても引けを取らないほどの霊力があった。けれど同じくらいの魔力を持ち合わせてしまったから、制御が苦手なの。だから感情が高ぶると…その、わたしを守護するものが……」


リドルはそう言われて、あの大きな炎の蛇を思い出した。
あれが、彼女を守護するものだというのだ。感情が昂ぶる、つまりはミヒャエラに多大なる危害が加えられた場合には、アレが出てくるのだ。信じがたいけれど、あれを実際に見てしまっている以上は、信じざるを得ない。


「どうしてリドルには話してしまうのかしらね。あなたの性格を考えれば理解してくれそうだからかしら」


戸惑ったように笑うミヒャエラに、リドルはまた心の中でほくそえんだ。
そうだ、もっと溺れろ。酔ってしまえ。トム・リドルという男に酔いしれて、手足となり、ずっと側に居れば良いのだ。

リドルは少しばかり満たされた独占欲を優しく寝かせ、微笑んだ。









2018/09/13 今昔




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