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※ハヤミラ要素有り
※ミラージュの妹なヒロイン

「カナメさん!!」


惑星アルヴヘイム。突然現れたメッサーと、今までデルタ小隊を圧倒していた白騎士との一騎打ちがはじまった時、歌っていたのはカナメだけだった。イシスは慌ててカナメのフォローに入ると、彼女を守るようにヴァルキリーの手ですくい上げる。彼女にはかすり傷程度しか着いていないようで、イシスは安心してコクピットから降りた。
歌いながらも驚いてこちらを見るカナメに寄り添い、あの日、はじめて聞いたときの感動を思い出しながら、今はここに居ないクレアのパートを歌う。カナメとフォールド波が共鳴していくのを感じながら、イシスは戦闘に目を向けた。







風が心地よい。
こんな日は空がよく見える場所で歌いたくなる。

自分は決してワルキューレのメンバーにはなれない。己に受け継がれた血統がパイロットであるからして、我々はワルキューレを守るべきだという姉−−ミラージュと共に空を舞っているからだ。フォールドレセプター数値はむしろワルキューレに入っても良いくらいの数値を持ってはいる。
けれど自分は空に居るべきだと思うのだ。

尊敬すべきミラージュと同じ色の髪の毛が、風に煽られて揺れる。
今日の訓練は休みなので、マクロス・エリシオンの発着場で散歩をしていても安全だ。


「お、ミラ……イシスか!お前もここに居たんだな」


口ずさんだまま踊るように振り返れば、空と海を写し込んだような髪色。ハヤテが私服姿で立っていた。姿を見るだけでちょっと涙ぐみそうになる。


「相変わらず歌上手いよな、あんた。ワルキューレになれるくらいだっていうのに、なんで空に居るんだ?」

「ハヤテが空に居るからね」

「なんだよそれ、イシスが飛んでるのは俺が来るよりずっと前からだろ?」

「今まではミラ姉が居たからだったよ。今は……ちんちくりんで、頼りなくて、背中をカバーしてあげなくちゃならない後輩ができたからかなあ」


今はメッサーさんも居ないからね、と付け加えると、ハヤテの顔がすっと真面目なものになった。


「分かってる。だから俺はメッサーの分までちゃんと飛ぶ。ウィンダミアには絶対負けねえ」

「そうだね、期待してるよ、ちんちくりん。」

「そいういうお前はプクリンだな」

「なにそれ?」

「俺が居るといっつも頬ふくらませてるだろ」


そりゃそうだ。
ああ、これって恋なのかな?なんて思ってたら、ハヤテの隣には気づけば尊敬すべき姉ミラージュが居たのだから。大好きな二人が一緒に居てくれることは嬉しいはずなのに。
そんな気持ちで空を飛んでいたら、あの日、強烈な風を感じてしまった。アルヴヘイムでメッサーと戦っていた白騎士。あのパイロットが綺麗に風にのるたび、心の中には爽やかで鮮烈な旋律が溢れて止まらなかった。

生体フォールド波はレセプター因子を持つ者同士をシンクロさせる。この仮説は風の歌い手と美雲たちがつながったという事実に基づいている。
あの日、イシスはもしかしたら。


「ハヤテを見ると思い出すんだよ。白騎士のこと」


失恋のショックから、敵のパイロットと共鳴するなんて。なんて身勝手な心なんだろう。
ハヤテが気になっていたはずの心は今、あの日感じた風を思い出しては締め付けられている。
きっとこれは恋じゃない。そうだ、恋じゃないはず。白騎士という強敵を前にして、少し戦いているだけなのだ。絶対。敵を好きになるなんて。見たこともない相手を好きになるなんてありえない。






【 はじめて 風が結んだ日 】





ウィンダミアに降る雪を皆がら、キースはあの死神との戦闘中のことを思い出した。確かにワルキューレの歌声が聞こえていたが、聞き覚えのない声が混じっていたように思うのだ。
雪解け水のように透明で、陽光のように真っ直ぐで暖かい、そんな歌声を確かに感じた。ルンが、その歌に共鳴した。体が熱く滾り、風に乗るのではなく、むしろ風になったような感覚。


「あれは、デルタ6、数学的にも美しいと言われる六番機のパイロットだったようだ。」


ロイドの発言に、キースも思い出した。そうだ。死神のサポートに入っていた白いラインの機体。最後、ワルキューレを守るように飛んでいったのを見たような気がする。


「パイロットが何故歌う」

「さあ。しかしあの戦闘中のデータを解析すると、ワルキューレのセンターである美雲・ギンヌメールを遥かに凌ぐフォールドレセプター数値が観測できた。」

「だろうな。この俺が、共鳴したのだから」

「雪の花が咲き、暖かな日差しと穏やかな風の中で歌う少女、だったか。まさかお前からそんなメルヘンな情景を聞くことになるとは想定外だった」

「不愉快では、なかった。ハインツ陛下の歌を聞いているときに似ていた」


そうか。とだけ言ったロイドはまたモニタへ目を向けてしまった。そこには赤茶色の髪の毛を揺らして、切なげな真剣な、すがるような目で歌うワルキューレのメンバー。そしてその隣にパイロットスーツのまま寄り添い、相反して穏やかに安心したように歌う赤紫色の髪の毛を揺らす少女が居た。
その姿を見ると、その歌を聞くと、どこか安心してしまう自分が居た。





2018/08/09 今昔
多分、AXIAと涙目を歌ったんだと思います




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