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第一章「猩々緋の瞳」
第四話「他国の血、異国の地」
※AS発売前にDebutのみプレイ状態で書いた話です
※↑を踏まえたうえで、美風と寿、博士に関する独自の解釈入ります。
※ただし、Debutをプレイしていれば想像してしまう程度の内容です
飛行機は凄い。なんといってもあんな鉄の塊が雲の上まで飛んでいくのだから。
でも。
どんなに凄くても嫌いなものもある。
「カミュ…気持ち悪い…」
「語弊のある言い方をするな。酔い止めで我慢しろ」
キーアとカミュはシルクパレスから隣国へ、そしてその国の空港から日本へと向かっていた。理由は数週間前に遡る。
いつも通り午後のお茶をカミュと楽しんでいた時だった。一人のメイドがキーア宛のエアメールを持ってきたのだ。
「私の名前で届いておりましたが、中を確認したところキーア様へお渡しするようにと」
「私宛に?」
誰だろう、何か呪いの類で無いと良いけれど。そう思いながら開けてみると。
「ミッチャーダからだ…」
「何?奴はなんと言っているのだ?」
「彼、夢を叶えてアイドルになったそうよ。そして、そこの事務所に私を勧誘したいんですって」
その後、日本でアイドルになりたいから行ってくると女王に言えば、ミッチャーダのことをまだ覚えていたのか、とても綺麗な笑顔で「いってらっしゃい、彼に会えたらよろしく」と言ってくれた。
その後、何かカミュが任務を受けていたようだけれど、聞かないほうが良いことは長年の生活で知っている。
というような経緯で、キーアはカミュと二人、日本を目指して空路をつきすすんでいた。ミッチャーダから手紙を貰ったことは女王には秘密にしてある。自分だけ文を貰ったとなっては女王は怒るだろうし、キーアも逆の立場なら嬉しくない。
気がつくとカミュの肩に頭を載せて寝ていたようで、飛行機が日本の空港に着陸するところだった。
『わぁ…あれが富士山!?』
高層ビル、というか電波を発信しているらしいタワーに登ったキーアは景色を堪能していた。日本についた時点でカミュとは別行動になってしまい、今後しばらくは一人でやっていけと言われている。何でもキーアとは別で女王からのお仕事をもらっているのでそちらで動かねばならないそうだ。
「ここはもう日本だから、こっちで話すようにしなくっちゃね
国で着ていたような衣装で日本へ来ることは駄目だというのは、本やいろいろなことで知っていたので、日本の文化の1つである"ゴスロリ"というものを着ていた。これがリボンやフリルがついていて、とても可愛らしいのだ。
何よりもショートパンツとニーハイ、ブーツのスタイルは思ったよりも動きやすく、伸びていた髪の毛も縛って帽子にしまっているので、いつ戦闘が開始されても問題ない。
「さぁ、そろそろ早乙女が指定した時間ですし、行きますか。
東京タワーというらしいそこからの眺めは名残惜しかったが、キーアは慣れない国で迷ってはいけないと後ろ髪ひかれる思いでその場を後にした。
指定された住所へ向かうと、そこはシンプルな事務所で表札には「シャイニング事務所」とかかれていた。どうやらこれが、今日からキーアの所属する事務所らしい。
「んーっと、これは普通に正面から入れば良いのでしょうか…?」
表から入ってよいのか、それとも裏口のようなところから入ったほうが良いのか。悩んでいてもしょうが無いので、練習のつもりで呟いてみると、意外なことに背後から答えが帰ってきた。
「普通に入っていいんじゃない?」
「にゃっ!?」
驚いて振り向くと、茶髪で人のよさそうな男性が居り、社員カードのようなものを使って事務所の正面扉を開け、入れと言うようにキーアをエスコートしてくれた。
「もしかして君、シャイニーさんの言ってた新人アイドルさんかな?」
「シャイニー…?」
「YES!彼女こそMEの命の恩人であり本日付けでシャイニング事務所準所属のアイドルちゃんなのでーす」
ベキベキ!
っと床が盛り上がったかと思うと、地下からミッチャーダが登場した。中に入れてくれた親切な青年は呆れたような顔をして「これがシャイニーさんだよ」と紹介してくれた。
「ミッチャーダ!」
「キーアさぁーん、お久しぶりでーす」
「お久しぶりでス!日本へ呼んでくれてありがとう!」
「で〜、シャイニーさん、ボクにもこの子、紹介してくださいよ」
青年が存在を示すように片手をあげてミッチャーダ……シャイニーにアピールしている。シャイニーは忘れてましたと笑い飛ばすと、彼に自己紹介するように言った。
「はじめまして、可愛いガール。ボクの名前は寿嶺二。嶺ちゃんって気軽に呼んでね!」
「私はキーア。シルクパレスという国からシャイニーにお呼ばれしてきました。よろしくお願いいたします、れーちゃん!」
シャイニーの指示で、二人はその場で携帯のアドレスを交換し、その日は月宮林檎という、事務所の男性…否、女性から事務所の説明を受けて、そのまま手荷物を持って事務所の寮へと送り届けてもらうことになった。
「にしても、キーアちゃんってホントに可愛いわよね〜。今度一緒にショッピング行きましょ!」
「もちろんです!日本のお買い物はとても楽しいです。」
林檎は"女装アイドル"というものらしく、男なのに女の格好をしてアイドルをしている。そのせいか、近寄っても怖くならず普通に話せたのが奇跡だ。
「はい、それじゃぁこれが鍵で、アタシは1つ上の階だから、困ったことがあったらいつでも呼んでちょうだい!」
「ありがとうございます、林檎!それでは、おやすみなさい」
「ばいばーい」
事務所の生活が始まった。
慣れない枕では寝れない人も世の中には居るそうだけれど、キーアはそこまで繊細には出来てない。ぐっすりと眠り、飛行機で酔った疲れもとれてさっぱりした顔にメイクをし、黒と赤を基調にしたパンク調の服に身を包む。
今日からはアイドルとしての下積み期間になるそうで、発声練習や日本語の特訓がはじまる。基本的に音楽の知識はシルクパレスに居た時から持っているし、母の遺伝で楽器も吹ける。そのこともあってかシャイニーは積極的に舞台に出してくれることが多かった。
「ちょっぴりハードにしておきましたぁ〜」というシャイニーのセリフどおり、結構厳しいレッスンや舞台公演が続いたものの、時折一緒にボイストレーニングをする嶺二やその友人であるという"博士"なる人物とも仲良くなって、充実した日々を送っていた。
『で、君に会わせたい人が居るんだけど、今日は一日空いてるって言ってたよね?』
朝のお風呂上り。夏というシルクパレスでは経験したことの無い湿度の高い気候に、扇風機にあたりながらブタちゃんで蚊取り線香をたき、氷たっぷりの麦茶を飲むという"風流"を教わったキーアは携帯を気だるげに持って通話していた。
「うん、空いてますよー。博士のラボに行けば良い?」
『うん、お願いするよ。』
「じゃ11時前くらいに行きます」
スマホをタップして通話を終わると、キーアは残っていた麦茶をぐいっと飲み干した。博士は今までいろんな研究の手伝いをキーアや嶺二に頼んでいて、突然心理テストをされたり、人工皮膚のさわり心地のテストをさせられたり。
また今日もそのテストのお手伝いの一環なんだろうなと、朝風呂後のすっきりした状態で、キーアはいつものお気に入りの服に着替えた。事務所の寮をでたところで、何故か塀に体を預けて嶺二が立っていた。
「嶺二!」
「お、おはよ、マイ・ガール。今日も可愛いね」
嶺二のこの言動やノリが一昔まえっぽいことに気づいたのは、キーアが日本という国に馴染んできたからだろう。そのちょっと古めかしい感じも嫌じゃないし、嶺二の人気もあるのは彼の魅力ということだろう。
「ありがとう。で、どうしたの?こんな所で。」
「博士に言われてね、キーアちゃんのお迎え」
初めて行くけれど別に迷う程の距離じゃないんだけどなと思いつつも、せっかくの申し出なので二人で行くことにし、デビュー済みの嶺二を気遣って出来るだけ目立たないように移動する。アイドルというのはプライベートでも大変気を使わねばならないらしい。
「私もデビューしたら嶺二と普通に歩けるの?」
「それは、僕と一緒に歩きたいっていうお誘い?」
「うん。でも林檎とも普通にお買い物行きたいな。」
「そうだね、デビューしたら逆に一緒に出かけるのは難しくなるかも。だって自分の好きな女の子が他の男と一緒に居たら、それって悲しいじゃない?」
確かに、キーアだってカミュに妹が居たら悲しい。なるほど!と大きく頷けば、嶺二が「えらいえらい」と頭を撫でてくれて、やっぱり嶺二もお兄ちゃんのようで好きだなぁと思う。
そして、キーアは初めて立ち入るラボへとやってきた。
「ところで嶺二、ここには博士以外の男も、居るの?」
「うん、多分今日も居ると思うけど…どうしたの?」
「……男は嫌いです」
「あれ?今までラボに来たことなかったの?」
「今までは嶺二と一緒にカフェや公園で会っただけ。」
失念していた。
そうだ。当然ラボというからにはそれなりの研究所で、ということは博士以外の男性に出会う可能性がある。アイドルのレッスンで男性と関わることはあるけれど、彼等は音楽に一筋な人が殆どだったから問題は無かった。けれど、この研究所の人たちが研究一筋かはまだ分からないわけで。
「あーそっか、最初は僕も警戒心むき出しで接してたもんねぇ。…ま、僕の側に居てどうしても無理だったら言って。人の居ないところに移動するから。」
「善処します…」
キーアは嶺二に手を引かれて、恐る恐るラボへと入った。と、中は想像していたような灰色無機質の質素な空間ではなく、書類や使われていないパソコン、サーバー用に設置されているらしいパソコン、埃を被りつつある観葉植物エトセトラ。難しい日本語で言うのなら「雑多」という感じだ。
「お、良く来たね。こっちだよ」
積み重ねられた書類の樹海を抜けて行くと、奥から博士が顔をのぞかせた。相変わらず研究しかしていないようで、白衣も大分くたびれている。
「おまたおまたー!で、今日は一体何なの?」
「ちょっと手伝って欲しいんだ。ひたすら心理テストに答えてもらわなくちゃならなくてね。印刷するのも手間だから、ちょっと来てもらったんだ」
言いながら博士はノートパソコンを二台長机において二人をその前に座らせると、頭に何やら脳波測定器のようなものを被せて、心理テストをスタートさせた。
<問:曲を聞いて、情景を思い浮かべて下さい>
<問:曲を聞いて、合うと思うイラストを選択してください>
<問:次のテーマに合う曲を、以下から選択してください>
・
・
・
大きなヘッドセットを付けた状態で、延々と質問に答えていくと唐突に「お疲れ様です。」という画面が出て心理テストが終了した。ふぅと息を吐いて隣を見ると、嶺二はまだ真剣に質問に答えていた。
「お疲れ様。早かったね」
「必死だったから…かな?」
「はい、ココア」
御礼と一緒にビーカーを受け取る。とても食欲を削ぐ品物だ。本来なら水色や黄色い化学薬品が入っているはずのソレに、キーアは固まった。
「ナニコレ…?」
「ん?ビーカーだよ?」
待て。それが聞きたいんじゃない。
「カップを全員分買うのって、意外と高いじゃない。でも直接持ったら熱いからビーカーに取っ手を付けてみたんだ」
博士お手製のそれは、ビーカーにガラスの取っ手がついていて、確かに博士の理論で行けばかなり良い物なのだろうけど、流石にこれを愛用する気にはなれなかった。
「あれ、もしかしてココア嫌い?」
「いや、ビーカーっていうのに抵抗があります…」
えぇ、そう?ととぼける博士にため息を一つついて、キーアは意を決してココアを飲んでみた。
「あ、美味しい…」
思わず顔が綻ぶ。美味しいココアにデレデレとしてしまう顔をどうにかこらえていると、何やら博士が物珍しそうな顔でこちらを見ていることに気づいた。
「博士?どうしたの?」
「いや、その……君の目の色が…」
しまったと思った。上機嫌になったせいか、瞳の色が出てしまったのだろうか、好奇心旺盛な博士の目は、キーアのそれを捉えて離さなかった。
「あ…と、…うん、ね?」
「綺麗だなぁと思って」
「へ?」
キーアは更に固まった。そんなこと、生まれてこの方言われたことがない。
「ほら、この前舞台…確か"人魚姫"だっけ?あれの練習を友達と見に行ったんだけど、その連れがさ、『あの人魚姫の妹、凄く綺麗な目をしてる』って言い出して。」
「で、僕があれうちの後輩ちゃんだよーって教えてあげたの」
落ち着こう。そう思ってココアをもう一口飲む。うん、美味しい。キーアはちょっと落ち着いてきた心がまた波立たないよう、気をつけて口を開いた。
「ありがとうございます。人魚姫は楽しかったし、褒めてもらえて嬉しい。その、博士の友達っていう方はどんな人?」
博士はちょっと悩んでから、
「真面目で繊細な奴さ」
とだけ言って、ビーカーに残っていたコーヒーを飲み干した。キーアもいつか会ってみたいなと思いながら、ぐぐっとココアを飲み干した。
第四話 終。
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