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第二章「IDOL」


第39話「思い出ですので」


『あなたのために、この香りはある』


---- 二人の触れ合う指先から 溢れだしたShinging Heart

---- もう伝わらないその温もりを

---- まだまだもっと(これからもそう)

---- 感じていたいよ Uh Sha-la Sha-la


『Jinguji-Cosmeは輝きたい女性を応援します。』






ピンクやオレンジ、赤色のバラを背景にしてシャンプーとリンスが宣伝される。

キーアはスクランブル交差点の向こう側にでかでかと流されているCMを見上げ、そこから流れてくる自分たちの歌にぽかーんとしてしまった。まさかこんな風に仕上がるとは思っても居なかった。
単語にするのなら…


「クールゴージャス………」

「意味がわかりません」


その声に不満の言おうと顔をあげると、綺麗な青みがかった黒髪が光をすかして木漏れ日のようにきらきらしていて思わず見とれてしまった。するとその黒髪は眉間に皺を寄せて、


「キーアさん?」


不機嫌そうに問うてきた。

今日は元Sクラスの5人で集まりお茶をしようということで、トキヤと二人、集合場所である学園寮へと向かっているところだ。
サタンのせいで留年になった榊は昨年度キーアが使っていた部屋に移ったそうで、その部屋でお菓子をつまみながら近況報告会を行おうという来栖の提案にのった。


「すみません、髪の毛の色、綺麗だなと」

「そうでしょうか?キーアさんのように、純粋な黒髪の方が綺麗だと思いますよ。それこそあのCMが似合うくらいには…」

「あれは…どちらかというとレンの担当です。」


Jinguji-Cosmeだし、と付け足すと、トキヤもそうですねと微笑んだ。

レンは家の仕事は絶対にしたくないと宣言し、そして仕事が入り始めた1ヶ月。実際に神宮寺家系列のCMや広告の依頼は6件ほど断っているそうだ。トキヤはそれを否定するかと思いきや、自身もHAYATOのことがあるので、むしろ肯定的で応援する体制のようだった。


「さて、榊の新しい部屋も気になります。さっさと行きましょう」

「はい。あ、あのお菓子美味しそう…」

「何キロカロリーか、教えて差し上げましょうか?」

「うぐ……遠慮します…買いませんからイジメないで…」
















学園の門をくぐると、気の早い生徒たちはすでに入寮していて、そういえば自分たちも入学式の一週間前には寮に来ていたなという話を聞いて懐かしんだ。確かキーアは仕事の関係で寮での初就寝は入学式の日だった。
男子寮へと向かっていくと、出入り口で男の子が3人サッカーして遊んでいた。よくよく見れば、榊と来栖と一十木のサッカー少年組で、私服の3人はすっかり汗をかいてはしゃぎまわっている。


「おーい!来栖ー!」

「お、キーアにトキヤじゃん!」

「二人共久しぶりだな、混じるか?」

「遠慮させていただきます」


冷たくあしらわれたことに不満を言いつつも、高級茶葉とお菓子を持ってレンがやってきた時にはすっかり満面の笑みに変わっていて、可愛い弟が出来たような気分だった。一十木はもう帰ると行ってしまい、5人は榊の部屋にあがりこんだ。

内装はやはりアンケートがあったらしくすっかり様変わりしていて、薄い灰色だった壁紙は青色に変わっていて、家具は全てモノトーンに。サッカー選手のポスターが張られて、すっかり男の子の部屋になっていた。


「わーすごい、榊お掃除上手なんですね!」

「いや、引越し直後で片付いてるだけだ。」

「サカキィ、ちょっとキッチンを借りるよ」

「あぁ、好きに使ってくれ」


レンがキッチンへお茶の準備をしにいった間に、来栖が何やらテレビとゲーム機を持ち出してきて準備を始めた。前から榊とはゲームを良くしていたらしく、てきぱきした動作はまるで自分の部屋に居るようだ。


「実はさ、文化祭とか体育祭とか、俺たちが出たもののビデオ持ってきたんだ。話しながら見ようぜ!」

「あぁ…年末にも見たものでしょうか?」

「いや、あれの豪華版!日向先生に頼んでみたんだよ。映像残ってるもの全部くださいって。そしたら関係社外秘ってことでDVDくれたんだ!」


榊が後ろから再生ボタンを押し、キーアも映ってるからなと付け足した。最初に映しだされたのは榊で、早乙女学園の会議室。どうも入試の時の映像らしく緊張した面持ちの榊が、精一杯のダンスと歌を披露していた。


「おや、サカキィの入試映像かい?」

「はい、日向さんがくれたそうですよ。あ、お茶ありがとう。」


5人の手にそれぞれお茶やコーヒー、コーラが行き渡ると、各自が好きなように座ってお菓子をつまみ、DVDの鑑賞会にはいった。

次に来栖の入試の様子、レン、トキヤと流れ、キーアの分も流れた。アイドルコースのダンスと歌のテストではなく、実際に自分の作った曲を弾き語りしている様子に榊と来栖が前のめりで見入っていて、後ろから見ていた3人で顔を見合わせて吹き出してしまった。

次に流れたのはペア決定後1回目の試験の様子、そして何故か昼休みに中庭で踊っている来栖と一十木、キーアの様子、そしてその後のダンスの実技テストの様子。
実技テストの様子を初めて見たけれど、ダンスに詳しくないキーアが見ても来栖と一十木だけダントツに切れのよいダンスだった。


さらにその後、体育祭本番の様子が流れだし来栖は顔をしかめた。


「うわー思い出したくないもん思い出した………」

「改めて見ると、本当に女にしか見えないよなー来栖もキーアもさ」


そりゃ女ですからね
余程言ってやりたかったが、キーアはクッキーに手を伸ばして我慢した。そしてDVDは、文化祭でのミュージカルの様子へと移っていった。


「わ、俺たちの演劇最初っからちゃんと録画されてるのかよ…」

「シャイニーが楽しみにしてましたからね。日向さんに業者を頼むように言ったのかと…」

「早乙女さんらしいですが、日向先生も経理処理が大変だったでしょうね」


約1時間のその劇も飛ばそうだなんて考えは一切なく、5人はそのまま画面を食い入るように見つめていた。
文化祭でも大盛況だったミュージカルだたけれど、改めて見るとやはり凄いとしか言い用がなく、聖川を筆頭に全員の演技力も歌唱力・ダンス・音楽・衣装全てが良い出来だ。当て役でかいた「ロミオとジュリエット」に「ウエスト・サイド・ストーリー」を混ぜた、あのメンバーでしか出来ない演劇。
改めてメンバーの相性の良さと合わさった時のレベルの高さを思い知った。


「いいな、この劇、このメンツ。あと最後の歌とかやばいな。」

「榊も居たらちゃんと一緒に出来たんだろうけどな」

「いや、俺は無理だ。こんな凄いの、もし封印なんかされてなかったとしても、技量が一人だけ追いついてなくて足引っ張ってたと思う」


ポテトチップスを一枚頬張りながら、榊は言った。


「俺、この7人でデビューしてほしいって思うくらいにはすげー好きだ、この歌。RAINBOWだっけ?まじユニットデビューしてほしい」


「イッエース、オフコース!!!」


がしゃーん



つい最近完成したばかりと思われる、榊の部屋の天井が割れた。


「シャイニー!!」


この真上にもちゃんと部屋があるはずなのだが、それを突っ込ませないのがシャイニーだ。


「お、俺の部屋……」

「心配ありまセーン!うちの黒子さんたちは優秀ですからネー☆」


その優秀な黒子さんたちのお給料はきっと高いんだろうなと思うと、キーアは経理のことが頭を過ぎって胃がキリキリと痛んだ。


「ミーがこんなすんばらし〜ユニットを見落とすはずがありまセーン!YOUたち7人はある程度の功績が認められた時点で、ユニットとしてもデビューしてもらいまーす!」

「ボス、キーアはどうなるんだい?」

「ミス・ナナミとキーアさーんには、作曲家としてついてもらいまーす」


待て待て待て待て!話が跳躍しすぎだろうが!と、顔面に書いてる来栖は衝撃のあまり声も出ないらしく、代わりにキーアが口を開いた


「でもシャイニー、今から一年は少なくとも仮雇用期間のようなものでしょう?そのあとの半年は例のアレが待ってますし……少なくとも一年半後になりませんか?」

「………細かいこと気にしちゃダメダメダメよダメなのよー!!」


絶対こいつ考えてなかったなとは思ったが、取り敢えずキーアは頷いておいた。もうすぐやってくる4月からの新年度も、なかなかに面白く充実したものになりそうだと。キーアは予感に期待を膨らませ胸を弾ませた。






第39話、終。






次回 第2章第40話「幕間」






2013/03/04 今昔都
これで、これでようやくSSとAAに入れる!!





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