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第二章「IDOL」


第31話「恋する日ですので」





バレンタインデー。

日本に数あるイベントの中でも一際理解し難い行事で、女性が好きな男性にチョコレートを贈るというものだ。
本来は日々の感謝を伝える日だったはずなのだが、日本の製菓メーカーのもくろみのせいか、はたまた新しもの好きでオリジナリティも捨てられない国民性のせいか。この国では兎に角女性が盛り上がっているイベントの一つだ。

キーアも郷に入っては郷に従えの言葉に習って、カミュには練乳入りのトリュフ(激甘)とココアクッキー(超甘)を。藍には食べ物を贈れないので手編みのマフラーと短い歌をCDにやいた。

それから博士に嶺二、シャイニー、日向、林檎と日々お世話になっている人たちにカップケーキを作りカードを添えて送ってある。
そう、そんな自分がバレンタインに何をしたか思い出しながらキーアは


「すみません、事務所の方に一度送っていただかないと、直接は受け取れないんです」

「そんなこと言わないでー!!」

「キーアくんに似合うと思って買ってきたのにー」

「え〜じゃぁお昼に一緒に食べましょ〜」


女子生徒に囲まれてプレゼントを押し付けられていた。

クリスマスの時には有効だったはずの「事務所を通す」という文句も、年頃でパワフルな女子生徒には無効化されてしまうようだった。助けを求めて来栖と榊に視線をやるも、恨めしそうに見つめられるだけで救助は見込めない。
かく言う二人だって幾人かの女の子からプレゼントをもらっているはずなのに、そんなヤキモチを妬かれてもこちらが困ってしまうというものだ。
いっそ魔法で炎の渦を起こして逃げてしまいたい程のアタックにキーアは小さくこっそりとため息をついたのだった。










朝のおはやっほーニュースのテーマもバレンタインデーだったなぁと思いながら、一ノ瀬の背中を眺めているうちに午前最後の授業が終了した。
もはや恒例となってきた3人での昼食を摂るために、キーアのもとへ無言でトキヤがやってきて、更にレンも机を合わせてピンクの袋に入ったお弁当を取り出す。


「あぁ…レン……そのお弁当…デザート付きなんですね………」

「そうみたいだね。」


チョコが苦手だと年越しパーティーの時に言っていたのを思い出して、
弁当の上に載っているチョコケーキを指さすと、レンはひょいと肩をすくめてみせた。

もちろん、女子生徒に貰ったのだから残すことはないのだろう。


「にしても、キーアもだいぶプレゼントをもらっているようだね」

「えぇ……本当は事務所通さないと怒られちゃうんですけど…」

「ご愁傷様です。」

「イッチーの方は……だいぶ少ないようだね」


プレゼントは嬉しくないのかい?とレンが楽しそうに聞くと、トキヤは眉間の皺を増やした。


「ええ、全く」

「即答!?」

「私宛のみならばまだ良いものを、HAYATO宛のものを届けてくれと頼まれることもあるのですよ。これがストレス以外の何だと言うのですか」

「まさか、それで受け取らなかったんです?」

「はい。ここにあるのは四ノ宮さんと聖川さん、七海さん、渋谷さんからのものだけですよ」


徹底的に身内からしか受け取っていないそのラインナップにレンとキーアは苦笑いした。
キーアも忘れないうちにと、いつもの鞄とは別で持ってきたトートバックから二人宛のプレゼントを取り出して丁寧に手渡す。
レンはチョコには困らないだろうということで、お手製の激辛煎餅を。トキヤも甘いものは好みではなさそうなイメージだったのでビターチョコのカップケーキ(ローカロリー改良版)を作ってきた。
聖川と一緒に料理しただけあって、種類も量も多かったはずだが、さほど苦にはならなかった。


「レンには誕生日プレゼントも一緒に入れてあるので、是非使って下さいね。主にデートの前がオススメですよ」

「ありがとう、キーア。バレンタインに辛いものを貰うのはなかなか新鮮だね」


ツボに入ったらしいレンはクツクツと笑い、トキヤに白い目で見られている。トキヤはローカロリーと聞くと安心したように鞄へしまいこんだ。


「ここだけの話ですが、お二人にはいつもお世話になっているので、他の人よりちょっとたくさん入れておきました。日持ちもするので楽しんで下さいね」

「ありがとうございます。」

「ささやかな気配りが嬉しいよ」


二人共十二分にモテるので嫌がられたらどうしようと思ったのはどうやら取り越し苦労だったようで、キーアはほっとため息をついた。










放課後、トキヤとの練習に向かう前にメールを確認していると、プライベートの方に新着3件と表示されていた。






差出人:美風藍
件名 :(無題)
本文
-------------------------------------------------
マフラーと歌、ありがとう。
まさか歌がプレゼントとは思ってなかったから吃驚したよ。
キーア流に言うなら

(゜д゜)!

-END-





差出人:カミュ
件名 :(無題)
本文
-------------------------------------------------
本来なら直接会って言うべきだろうが、機会もないのでメールで失礼する。
シルクパレスに居た頃よりもだいぶ料理の腕があがったようだな。
また同じ菓子を作らせてやらんこともない。楽しみにしておけ。

-END-





差出人:寿嶺二
件名 :ありがとぉおお!!
本文
-------------------------------------------------
キーアちゃんのお菓子、早速貰ったよー!
事務所内だとファンの子のより早く届けてもらえるからねん♪
学校だと色々大変だと思うけど、一日頑張って!
ホワイトデー楽しみにしててよねー(*´ェ`*)

-END-






3通それぞれに返事をしながら廊下を歩いているうちに練習室へと着いて、そうっと扉をあけると、そこには軽くストレッチをしているトキヤが居た。
どうやらメールを打っていたせいで遅くなってしまったようだ。


「遅れました、すみません。」

「いえ、私もどうにかこうにか逃げてきたところですので。」


どうやらトキヤは放課後も女子生徒に追い掛け回されたらしく、若干疲れた横顔を見せる。舞台上では見せないその表情がなんだかとても嬉しくて、キーアは小さく笑った。


「笑い事ではありませんよ」

「すみません。トキヤくんが表情見せるの、なんだか嬉しくって」

「おかしなことを言う人ですね。…私より、君の方が余程表情を出していないでしょう?」

「え?  そうですか?」

「気を張っているからでしょうか。教室だと終始笑顔を"張り付けている"ように見えますよ」


無意識に、なのだろう。
まったく自覚がなかったことを指摘されて、きっと今のキーアは呆然と間抜けな顔になっている。気づいて慌てて表情筋に力を入れると、トキヤはまたくすりと笑った。


「わ、笑わないでください…」

「仕返しですよ。」


最初に比べたら、物凄く仲良くなれたよなと思いながら、キーアはピアノ椅子に腰掛けるとオーディションソングの最終調整に入った。





---- このままほら動かずに 唇だけで確かめて

---- 私の目に映るのは 君しか許されない




手をいれる度に、情熱的になっていくその歌詞。そして高まっていく彼の決意。

彼は絶対にトップスターになれる。そう思わせてくれる歌声が心地良い。いつか彼の歌を作る人が自分でなくなることは寂しいけれど、同じ舞台にたって同じ目標を持って歌えるのなら。それも良いかもしれない。




卒業オーディションまで、あと2週間。








第31話、終。






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2013/02/18 今昔都
トキヤのBilieveMyVoice大好きです。
うたプリ全作通して、この歌からずっとブレてないのって彼だけ。
真斗とかもう……もう……orz
Debutのまぁ様が好きなすみません、
僕のかくまぁ様は基本的に無印時代です。






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