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第一章「猩々緋の瞳」

第一話「赤い目をした悪魔」




昔、国が栄えはじめた頃。
突如として国中に病が広がりました。
雪国だったそこでは簡単に子供が死に、老人が死に、
若者は悲しみにくれて死んで行きました。

王女が病をどうにかしようと、国中にお触れをだしました。


「病の原因を見つけた者に褒美をとらす」


すると一人の青年が、小さな悪魔を連れてやってきました。


「女王さま、この悪魔が病の原因です」


黒い神と赤い目を持った悪魔は火あぶりにされました。
けれど燃え尽きる前、悪魔は言ったのです。


「自分は病の原因じゃない。呪ってやる。この国に黒髪のものが生まれたら、それは私の意思を継ぐものだ」


次の年、女王の弟に黒い髪の毛の娘が生まれました。
女王は弟を勘当し、王族の分家として人々の目の届かないところに行かせて言いました。


「黒髪の子が生まれてこなくなったら、また王宮に戻ってくるのです」


弟の一族は何代も後、ようやくもとの髪色に戻り、悪魔の呪いを消し去ったのでした。
めでたし。







絵本を読み終わったキーアは、全然めでたく無いじゃないと呟いてその本を元の本棚へ戻した。キーアは今年で5歳で、そんな5歳の女の子が昼間からこもるには相応しくない、陰湿とすらいえるような図書室に、ふぅと溜息が響いた。

もとよりキーアはここ以外の遊び場を知らない。幼い頃に母が亡くなり、父の顔は知らない。なぜならそれはキーアが黒い髪の毛を持って生まれてしまったからで、決して両親は悪くなんてないのだ。そう言い聞かされてきた。


「キーア様、お食事の時間です」

「ありがとう」


執事によって図書室の机に持ち込まれた食事に手を付ける。パンとシチューは大好きなメニューだ。
絵本はこの国、シルクパレスの人間なら誰でも知っている程メジャーなお話で、生まれたばかりの自分は母から引き離されて牢屋に閉じ込められたそうだ。
もちろんキーアに悪魔がついているわけではない。母が国外からの旅人だったのだ。当然、国外の血が混じったのだからこの国特有の薄い髪色になるはずもなく、遺伝の定理にのっとってこの通り黒檀のような黒髪に生まれたのだ。

私も、母も何も悪くない。そう思っている。


「セバスチャン。」

「はい、お嬢様」

「お父様は王宮に戻られているのよね?」

「左様でございます」

「ではお母様は?また……連れて行かれてしまっているの?」


有能な執事は口をつぐんだ。
旅人だった母は、この国の王族に見初められ、戯れに付き合わされ、そして黒髪の子を生んだからという理由で今も辱めを受けていると聞いた。母の顔もまともに思い出すことは出来ないけれどキーアにとっての世界は、話に聞く母とこの執事セバスチャンだけだった。


「私、いつかお母様を助けたいと思うのよ。だから…セバスチャンに体術を教わろうと思って」

「…お嬢様が望むのならば、喜んで」


吹雪を制御出来る女王が居なくては直ぐに雪に埋もれてしまうこの国は、
今日も雪景色だった。







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