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敵機は突如として現れた母艦アークエンジェルを攻撃しはじめた。たしかに目前のモビルスーツよりも母艦のほうが火力は圧倒的であり、しっかりと避けながら撃つことができれば倒せる可能性もあるように思われる。あくまでもアインの素人考えではあるけれど、母艦を攻撃することは正解だろう。
ただし、敵機のパイロットが考慮し忘れていることがある。ストライクのパイロットであるキラが並々ならぬ能力を秘めているということだ。





03・船出





「ラミアス大尉!!」

「バジルール少尉!」


キラの放った兵器は軽々と外壁に穴を作ってしまった。宇宙へと様々なものを吸い出していくその穴を利用して、まんまと敵機には逃げられてしまったわけだ。
ともかくアークエンジェルが起動しているということは、そこに軍人が複数、それも母艦たる装置を動かすに足りるだけの人数が居るということになる。ストライクとグリフェプタンの両手にラミアスたちを乗せ、キラとアインは機体を駆った。

機体の発着カタパルトへと降り立てば、おそらく内部へ通じるのであろう通路から軍服の集団がやってくる。全員白い服だから、なかなかの階級なのだろう。と、アインは昔ちらっと聞いた知識で彼ら軍人の様子を見つめた。下の方の階級であれば、色がついているはずなのだ。


「ご無事で、なによりでありました」


機体から降りてきたアインは、バジルールと呼ばれた少尉に見覚えがあった。今日カトウゼミへ向かう前にエレカポートで見かけた軍人っぽい女性だったはずだ。その後ろに居る軍人さんたちをじっくりと見つめれば、確かにあの時すれ違った三人組の全員が居る。軍人らしい立ち方だと思った人たちは本当に軍人だったようだ。
あまりにじっと見つめていたせいか、黒髪の男性と目があった。お互いにアッと声を出してしまいそうに目を見開き、そして何もなかったような顔に戻る。けれど確実にあの男性はアインが歌手であるアインだと気づいたのだろう。チラリと視線が目からそれて少し下がった。喉元を見られていたのだろう。


「あなたたちこそ、よくアークエンジェルを。お陰で助かったわ」


ちらりとバジルールがこちらを見た。後ろに居た黒髪ではないもう一人の男性もこちらをみている。そこへ、一足遅れてキラも機体から降りてきた。


「おいおい、何だってんだ?どっちも子供じゃねえか」


工員であろう中年の男性がぼやく。自分たちが手入れするはずだったものに、年端もいかない子供が乗っていれば、職人としてプライドのある男性からすれば良い気持ちでは無いのかもしれない。


「この坊主と嬢ちゃんがあれに乗ってたてのかい」

「ラミアス大尉、これは…」

「あぁ…」


言葉を濁すラミアスに、バジルールは戸惑うような厳しい視線を向ける。怒られるのはまずラミアスだろう。キラとアインはその後だ。
どちらにしても怒られるのは嫌だなあ、だなんて思考していれば、場の空気に似合わないような明るい気さくな声がした。


「へー。こいつは驚いたな。」


アインがラミアスの隣までやってきて見てみれば、白と紫のパイロットスーツに身を包んだ金髪の男性だった。ナチュラルはコーディネイターに比べると見た目でも劣ると言われているが、そんなことはないくらいに整った顔立ちをしている。


「地球軍第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉。」


よろしく、そう続けて敬礼した男性に


「エンデュミオンの鷹ぁ!?」

「第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」

「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」

「で、そちらのお嬢さんは?」

「あ…あたしはアイン・アルスターです」

「ほう、オーブの歌姫か。俺の通り名を知っているとは…意外だなぁ。ところで、乗艦許可をいただきたいんだがねぇ。この艦の責任者は?」


叫びをラミアスとバジルールに無視されたアインにも自己紹介を促し、フラガは微笑んだ。どうやら乗艦許可をとるため、ここまで足を運んだらしい。母艦が動いているのだからそれを許可する立場の者が居ると考えてここまで来たのだろう。
それに、バジルールも悲痛な顔で答える。


「艦長以下、艦の主だった士官は皆、戦死されました」


きりりと軍人らしい雰囲気のバジルールがこんな顔をするとは想像していなかったので、妙に心を打たれる。真面目で冷徹そうな軍人に見えても、やはり同僚や上司の死は重たいのだろう。


「よって、今はラミアス大尉がその任にあると思われますが。」


その後続いたバジルールの台詞によれば、生き残ったのはほんの十数名で、フラガがそれに返した「なんてこった」という言葉はまさに皆の心を代弁した形になる。
乗ってきた艦が落とされたというフラガも、無事この艦の一員とされ、改めて振り向き問うた。






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