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「アイン、ミリアリア、あなたたちなら知ってる?」
01:砂糖菓子
穏やかな太陽光は体に良いと聞くが、本当にその通りなのだろう。久々に浴びた少し眩しいくらいに暖かな日差しは、心の中までもポカポカにしてくれそうだ。
そんな穏やかな気候の日、アイン・アルスターは珍しく学校へと登校していた。有名とまではいかないもののアイドルやら歌手やらと呼ばれる職業についている彼女は、アルスター家の希望の星であるが故にあまり学校へは来られない。
アルスター家の父親は事務次官で、その娘がアイドルとして活躍すれば相乗効果で世間に良い印象を与えられると思っているらしい。
だからこそ歌手活動に力を入れてくれていて、国内ではそこそこ名前は売れてきている。学校に来れないことも増えてしまったが、少なくとも義理の双子の姉であるフレイよりは「良い子」であると自負している。
アインはもともと、ザフトに占領された国の生まれだったらしい。らしい、というのは、アルスター家に引き取られたのはまだ幼く物心付く前だったので、身の上については義理の父親に聞いたことしかわからないのだ。
それでも、最近ではめっきりみかけなくなった黒い髪の毛と黒い瞳のお陰で、家の中でも安穏の暮らしていける。黒という色はコーディネイトしづらいらしく、ナチュラルにしかありえない色だそうで、元孤児といえども問題なく受けれてもらえている。
放課後、級友のミリアリア・ハウ、トール・ケーニヒ、キラ・ヤマトと合流したアインは、校内の彼女のファンに手を振りながらレンタルエレカポートへと向かっていた。
「だからぁ、そういうんじゃないんだってばーっ」
「あ!ミリアリアにアインじゃない。」
「はぁい!」
「こんにちは」
「ねえっ、あなたたちなら知ってるんじゃない?」
どうやらポートでじゃれあっていたのはアインの義理の姉フレイとその級友二人で、フレイがサイ・アーガイルから手紙を貰ったことで騒いでいるらしい。もちろん、アインの知ったことではない。
この義理の姉であるフレイ・アルスターのことは、正直あまり好きではない。最も、嫌うようになったのは学校に通い始めたころからで、小さい頃はとても仲が良かった。けれど、お金持ちの生まれであることや自分の容姿にかこつけて「誰もが自分に従うのだ」という雰囲気を漂わせはじめ、アインはお手上げとなった。
彼女に悪意はないのかもしれない。父親は事務次官の仕事で忙しく良くも悪くも放任主義だ。だからこそフレイはこう育ち、またアインも自由にカトウゼミに出入り出来るので、一概に悪くは言えない。とどのつまり、それなりに満足しているということだ。養子の身の上で不平不満を言っては、人としてどうかと思う。
「----乗らないのなら、先によろしい?」
「あ、すいません。どうぞ。」
後ろからやってきた人に道を譲るトールの声で現実に引き戻されたアインは、慌てて道の端に寄るようにしてやってきた人を仰ぎ見た。
先頭に女性。それから男性も二人。三人とも20代前半くらいだろうか。きびきびした動きや姿勢が、軍人のようだ。
その三人が行ってしまえば、フレイたちも黄色い声をあげながら去っていく。
ミリアリアたちもその後にきたエレカに乗り、カトウゼミへと向かった。
一方、少年少女たちから離れていくエレカの中で唯一の女性、ナタル・バジルールは呟いた。
「なんとも平和なことだな」
あれくらいの年で最前線に立つ者も多くいうというのに、理不尽にもここの子供たちは平和というぬかるみにはまり、はまったことにも気づかず、出る気もさらさらないようだ。
もちろん、他国で起きている過酷な世界をヘリオポリスの子供たちが知っているとは思えない。そんな環境を作り出しているのは自分たちと同じ大人なのだから、仕方の無いことではある。
「ですが、あの黒髪の少女は違うような気がします。」
前の座席にいるアーノルド・ノイマンは言った。
「確かに、あの子は少し…"違う目"をしていたな。」
ナタルは手元のファイルを開き、あるページで手を止めた。軍が計画しているとあるプロジェクトの関係者名簿。その詳細プロフィールが書かれたページには写真がついており、先ほど見かけた少女と瓜二つな写真が添付されている。
そのプロフィールの次には軍部からの指令書が挟まれており、彼女を本人の意思のもとで連行するようにとメモ書きがある。彼女が何かしら軍部に関わる人間だと、それだけしか分からないが、ナタルはバックミラー越しにまだ少女の姿が見えやしないかと視線を投げた。
アイン・アルスター。その名前を心の中で呟いて、いつ訪れるか分からない再会に思いを馳せた。
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